| 所属 | 大学院情報理工学研究科 情報学専攻 |
| メンバー | 宮本 友樹 助教 |
| 所属学会 | 米電気電子学会(IEEE)、人工知能学会、ヒューマンインタフェース学会、日本知能情報ファジィ学会 |
| 研究室HP | https://sites.google.com/view/tomokimiyamoto |
| 印刷用PDF | 宮本友樹 研究室(PDF:1.2MB) |
掲載情報は2026年5月現在
ヒューマンエージェントインタラクション(Human-Agent Interaction: HAI)、ヒューマンロボットインタラクション(Human-Robot Interaction: HRI)、対話システム、対話エージェント、擬人化、人とエージェントの関係性構築、理論指向、インタラクションデザイン、インタラクションモデル、心理学実験
人間が持つ知能とは何でしょうか。AI(人工知能)に心はあるのでしょうか。人は機械のどのような振る舞いに心を感じるのでしょうか。人と、AIなどのエージェント(人が自律的であると認識する主体)との相互作用を対象とする研究領域はヒューマンエージェントインタラクション(HAI)と呼ばれ、日本の研究者集団により立ち上がりました。人とエージェントのインタラクションを円滑にし、その心理や認知過程を明らかにしようとするHAIの研究においては、人の特性を深く理解することが欠かせません。
HAIのアプローチで対話システムを研究する宮本友樹助教は、人と対話する「対話エージェント」を使った心理実験や工学的手法の開発、理論体系の構築などによって、人と機械のコミュニケーションやインタラクションを工学的にデザインすることを目指しています。人とエージェントが共生する社会の実現に向け、ユーザから長期的に受容してもらえるエージェントの設計などを通じて、「人工物の振る舞いに宿る“心”を解き明かしたい」と宮本助教は考えているのです。
人と対話エージェントのより良い関係性を目指し、宮本助教は特に、人の心理や認知、行動に影響を与える「対話エージェントの設計論」と、人とエージェントが「楽しく仲良くなるためのインタラクションデザイン」の二つの観点から研究を進めています。
最近、提案した体系化の構想として、人の対話の原理を科学的に解明した「理論指向型インタラクション研究(T-HCAI)」があります。対話という現象を実験環境で再現し、その原理を理解した上で、人文科学の理論や知見などを参照しながら、インタラクション概念としてモデル化しました。宮本助教は「対話エージェントを社会へ適切に実装していく上で、欠かせない理論的枠組みになる」と語ります。
実証研究としては、一つ目に、対話エージェントがあえて批判的な態度を取ることで、人の認知の変化を促せることを明らかにした実験があります。例えば、ユーザが今日受けた試験に対し、「かなり勉強したから自信があったのに、最後にケアレスミスをしてしまって、落ちたらどうしようと不安でたまらない」と心配しているような場合に、ただ共感するだけでなく、「なるほど。でもそこまで思い悩む必要はないよ。いまさら後悔しても仕方ないし、そんなことを考えるのなら、ほかの仕事の成果でも気にしたら」などとエージェントが声をかけます。
冒頭では、ユーザの発話を繰り返したり、質問したりといった「積極的傾聴」を行い、その後にユーザの否定的な感情に同意しない「批判的段階」を挟み、最後にその意図を説明しながら正当化する「フォローアップ」を行うのです。一般にロボット研究では、機械はできるだけ人に寄り添い、共感することを目指しますが、共感することに加え、ユーザとの関係を一時的に崩しながらも、機械が批判的に振る舞い、ユーザがそれを受け入れた時に、心配事などに対して前向きな態度が取れるなど、人の認知が大きく改善することが分かりました。
また別の研究では、対話エージェントとエンドユーザの関係に、新たに「エージェントの導入者」の視点を加えたHAIの三項関係において、インタラクション実験を行い、エージェントが失敗を犯した際に、エージェントとエージェント導入者のどちらが責任を負うべきかという「擬人化と責任帰属の関係」を定量的に分析できることを示しました。結果として、「対話エージェントの擬人化性の帰属(人間的であると感じる度合い)が高いほど、エージェント導入者に対する責任は小さくなることが確認できた」(宮本助教)そうです。
さらに、疑似的な裁判のシミュレーションによる「同調効果」についても研究しています。複数のロボットがすべて同じ意見を持ち、自分だけ異なっている場合に、人はロボットに同調しやすくなるという同調効果がよく知られています。既存の同調実験は、社会的な責任が問われないクイズ形式のような形であったのに対し、宮本助教は3体のロボットを使って裁判シナリオを設定し、より実用に近い状況下で検証したところ、高い確率で同調は起こりますが、その際に、人は情報をより精査した上で、意思決定を行っていることが分かりました。
そのほか、宮本助教は対話システム(AI)が正しく、人が間違っている場合に、リーダーはどう振る舞うかを検証する実験なども手がけています。例えば、「砂漠で人が遭難した時に、生存の可能性を高める上位五つのアイテムを選択しなさい」という問いに対し、複数人の中に1体の対話AIが混じったグループで提案するケースを考えます。この有名な問題には模範解答が存在し、グループワークによって、その正解にどれだけ近い解を出せるかで評価することを事前に伝えておきます。
模範解答は、1位から順に「化粧用の鏡、1人1着の軽装コート、1人1リットルの水、懐中電灯、赤と白のパラシュート」です。実験の結果、「人が正しい意見を述べる」時よりも、「対話AIが正しい意見を述べる」時の方が、リーダーはグループ内の誤った意見を採用する確率が高くなることが判明しました。これについて宮本助教は、「対話AIが正しく、人が間違っていることが明らかな場合でも、人間関係などの社会的なしがらみによって、人は単純にAIの意見を採用することはできないのではないか」と考察しています。
対話AIに対しては不要でも、人に対しては「たとえ誤った意見であっても配慮しなければならない」との意識が働くため、「単に高性能なAIを職場などの組織に導入しただけでは、作業効率は上がらない」と宮本助教は指摘しています。AIやロボットと人が共生する時代に向けて、こうしたさまざまな問題の設定や実証研究が、より重要度を増してくることは間違いないでしょう。
【取材・文=藤木信穂】