Google Translate
Google Translate

UECで究める

研究室紹介冊子OPAL‐RING 野嶋琢也 研究室

VRによる口腔機能の強化とオーグメンテッド・スポーツに向けた研究

所属 大学院情報理工学研究科 情報学専攻
メンバー 野嶋 琢也 准教授
所属学会 バーチャルリアリティ学会、情報処理学会、ヒューマンインタフェース学会、米電気電子学会(IEEE)、米コンピュータ学会(ACM)、日本老年歯科医学会、日本咀嚼学会
研究室HP http://www.nojilab.org/
印刷用PDF 野嶋琢也 研究室(PDF:1.2MB)

掲載情報は2026年5月現在

野嶋 琢也
NOJIMA Takuya

キーワード

バーチャルリアリティ、ヒューマンインタフェース、エンターテインメント、オーグメンテッド・スポーツ、超人スポーツ、口腔感覚、咀嚼、嚥下

コンピュータが生成した空間を現実のように体験できるバーチャルリアリティ(VR)は、エンターテインメントの枠を超え、今や健康・スポーツをはじめとする多様な分野に浸透しています。とりわけ、人間とシステムを一体化して増強する「オーグメンテッド・ヒューマン(人間拡張)」時代が到来し、身体機能の向上やトレーニング、リハビリテーションの在り方がVRよって大きく変わりつつあります。

咀嚼トレーニングゲーム

VR技術を用いたインタラクティブシステムや、ゲームで利用されるようなヒットポイント(HP)や攻撃力といった数値で身体能力を増強して楽しむスポーツ、オーグメンテッド・スポーツ(拡張型スポーツ)を開発する野嶋琢也准教授は、現在、口腔(こうくう)機能の発達や改善に寄与する「口腔トレーニング」と、「オーグメンテッド・スポーツ」の二つの柱で研究を進めています。「VRによって身体感覚を可視化し、それを増強することで、幅広い世代に向けた健康増進やスポーツへの新たな取り組み方を広げていきたい」とのビジョンを野嶋准教授は描いています。
口腔領域では、かむ力(咬合力)を測る簡易なチューブ型咬合力計測装置を開発し、これを使って咬合力を増強する咀嚼(そしゃく)トレーニングゲームを作りました。チューブをかんで咬合力をリアルタイムに計測しながら、咀嚼動作によって画面上のキャラクターを操作します。例えば、かむ力でジャンプの高さを調整しながら障害物をよけたり、左右に移動しながら木から落ちてくるリンゴを口でキャッチしたりといったゲームプレイを通じ、咬合の強弱や左右のバランスなどを意識した効果的なトレーニングが可能です。

チューブを適切な力とリズムでかむ咀嚼トレーニングは、成長期の子どもの下顎の拡張や咬合力を増強する手法として活用されていますが、家庭で長期間トレーニングを継続させることは容易ではありません。野嶋准教授は「ゲーミフィケーションを導入することで、子どもがモチベーションを維持しながら、適切なかみ方で楽しくトレーニングができるだけでなく、子どもと同様に、かむ力の弱い高齢者向けのトレーニングにもなり得るのではないか」と考えています。

食感などの操作も可能に

また、別のテーマとして、「歯根膜」に電気刺激を与えることで、食感などの口腔感覚を人工的に生成する研究にも取り組んでいます。ものをかんだ時に感じる感覚である「歯ごたえ」は、食べ物の場合は食感とも言われ、咀嚼筋(かむ動作時に働く筋肉)と歯根膜によって知覚しています。歯根膜は歯と歯槽骨をつなぐ繊維性の組織で、歯にかかる触圧力感覚の検知に関わっており、歯ごたえなどの感覚のほか、咬合の制御にも使われています。
実験では、下顎の右犬歯と右側切歯を電極設置の基準点とし、歯茎から歯根膜を狙って経皮の電気刺激を行いました。右側切歯から左に約22メートル内、上下4ミリメートル内の計45カ所に電極を置き、その中でランダムに選択した15カ所の刺激点に対し、一点ずつ5秒間、数十回の電気刺激を与えました。その結果、刺激した領域を中心に、痛覚をほぼ与えることなく、細かい振動を感じる触覚のような感覚を付加できることを確認しました。将来、食感を人工的に操作したり、咀嚼動作に介入したりといった技術の開発につながるかもしれません。

剣術競技「パラブレード」を提案

一方、オーグメンテッド・スポーツの領域では、実践護身スポーツである「チャンバラ」に、体力や攻撃力、防御力、素早さという四つのバーチャルパラメータ(VP)を導入し、身体運動能力をバーチャルに補うことのできる拡張型の剣術競技「Parablade(パラブレード)」を提案しています。実験では、模擬刀が身体に接触した際に生じる衝突音をマイクで計測し、そのデータから、接触の有無や当該部位を自動で判定可能なことを示しました。この自動判定装置とVPを組み合わせ、対戦する2人の運動能力をある程度そろえることで、対等に勝負できる環境を作り出すことに成功しました。

パラブレード対戦の様子

剣道やフェンシングなどの剣術競技では、有効な部位への打突や突きといった一撃を判定に取る試合ルールや、相手との間合いを読み合う高度な駆け引きが特徴です。こうした瞬間的な動作や判断は、身体能力や経験に強く左右されることから、プレイヤー間の差が大きくなりがちです。これに対し、パラブレードは、“平等な条件で勝敗を決める”従来のスポーツ観とは一線を画します。野嶋准教授は「子どもと大人、高齢者と若年者、あるいは障害の有無にかかわらず、どのような相手とも同じ土俵で競い合えるという新しいスポーツの形を提案できる」と語ります。

魚との共生感覚

そのほか、魚が入った水槽に対して「身体所有感(自分の身体の一部であるという感覚)」を生じさせ、魚との共生感覚を生み出す実験なども手がけています。隠された自分の手と、見える位置にある人工の手を同時になぞると、人工手があたかも自分の手のように感じられる「ラバーハンド錯覚」を応用し、メダカが泳ぐ水槽と、被験者の腕に同期した触覚刺激を与えたところ、水槽を自分の腕の一部のように感じやすくなることが分かりました。こうした試みは、魚を自分と共生する存在として認識させたり、生物が棲む海洋環境に目を向けさせたりするきっかけになると野嶋准教授は期待しています。
また、本学では現在、産学官連携により、ゲーム業界をけん引する“革新的ゲーム創造テック人材”の育成を目指す「先端技術と創造力を統合する技術系ゲームクリエイター育成のための産学官連携プログラム」を走らせており、野嶋准教授もこれに参画しています。「VRはゲームの基盤技術であり、情報通信やAI(人工知能)、ロボティクスなどほかの分野の先生方と協力しながら、業界を担うゲームクリエイターを育てていきたい」と野嶋准教授は展望を語っています。

【取材・文=藤木信穂】