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研究室紹介冊子OPAL‐RING 坂野昌人 研究室

ナノ・量子物質における電子構造の解明と新物性開拓

所属 大学院情報理工学研究科
基盤理工学専攻
メンバー 坂野 昌人 准教授
所属学会 日本物理学会、アメリカ物理学会
研究室HP https://sites.google.com/view/sakano-group
印刷用PDF 坂野昌人 研究室(PDF:2.7MB)

掲載情報は2026年5月現在

坂野 昌人
SAKANO Masato

キーワード

角度分解光電子分光、二次元結晶、ファンデルワールス積層体、非線形光学効果、トポロジカル物質

電気が流れやすい、透明で光を通す、光を電気に変換する、磁石のような性質を示す――。こうした物質のあらゆる性質は、その内部で電子がどのように分布しているかによって決まります。この電子構造を明らかにする実験手法の一つに、光電子分光があります。光電子分光は、物質に光を当てると電子(光電子)が放出される外部光電効果を利用し、飛び出した電子を調べることによって、物質の電子状態を直接観測する手法です。とりわけ、光電子の運動エネルギーと放出角度を調べられる角度分解光電子分光(angle-resolved photoemission spectroscopy: ARPES)は、超伝導体やトポロジカル物質、磁性体、低次元物質など、最先端の物性物理学や材料科学の研究に欠かせない手法になっています。

光電子分光で二次元結晶の電子構造を解明

坂野昌人准教授はこれまで、ARPESやスピンを観測できるスピン分解ARPESを用いて、空間反転対称性の破れた半導体や、トポロジカル物質における電子やスピンの構造を調べてきました。特に、物質の構成元素や結晶構造の対称性に着目し、それぞれの物質が内包する豊かな物性現象を見出してきました。
こうした研究を進展させ、現在では、単層グラフェンに代表される原子1個から数個分の厚さのシート形状の二次元物質(二次元結晶)の領域において、新たな試料を作製し、その電子構造について研究しています。テープで剥離することによって得られる二次元結晶は、自在に持ち上げて結晶同士を重ねることで、天然には存在しない物質を作製することが可能です。そのような積層体では、「構成要素である二次元結晶において、単独では発現しない物性が発現することに最大の魅力がある」と坂野准教授は語ります。

試料作製プロセスやレーザー角度分解光電子分光装置を開発

研究に当たり、坂野准教授はまず、共同研究者とともに複雑な試料構造にも適用可能なARPES用の試料作製プロセスを開発しました。テープ剥離で得られる原子レベルの薄い二次元結晶は、試料サイズが10マイクロメートル(マイクロは□□□万分の1)程度とかなり微小です。そこで、坂野准教授は当時所属していた東京大学大学院工学系研究科石坂研究室で、レーザー光源を10マイクロメートル程度に集光したマイクロ集光レーザー角度分解光電子分光装置を開発しました。これらのプロセスや装置を使い、多様な二次元結晶やそれらの積層体においてARPES測定を行い、新しい電子構造を見出してきました。

二次元結晶の電子構造の層数依存性を確認

代表的な成果が、タングステンとテルルからなる二次元結晶(WTe2)の電子構造の層数依存性の研究です。坂野准教授は、層数の偶奇性に応じ、電子構造の特性が異なることを突き止めました。これまでWTe2は単層試料の物性のみが注目されてきましたが、数層で特徴的な電子構造が現れることが分かったのです。さらに、その結晶構造を対称性の観点から考察し、単層同士をひねって積層することにより、結晶構造の空間反転対称性を制御できることも明らかにしました。
この研究から、WTe2の積層様式の制御や電子構造の研究、また二セレン化レニウム(ReSe2)における空間反転対称性の破れた人工二層構造の創製といった研究へと発展しています。

超伝導体のひねり積層体や次世代トランジスタ材料の研究も

研究室発足後、坂野准教授は二次元結晶を積層するシステムを立ち上げ、磁性体や超伝導体など、多種多様な物性を示す二次元結晶の積層体を作製し、新たな物性の開拓を目指しています。例えば、次世代放射光施設「ナノテラス」では、1マイクロメートル未満の集光光源を用いたナノARPES装置が今後稼働することから、こうした環境でも研究を進めていく予定です。
さらに、ARPES測定に加え、研究室では、レーザー光源を用いた二次元結晶の積層体の非線形光学効果の研究にも着手しました。坂野准教授は、「ナノテラスなどの最新設備や自身で立ち上げる実験装置を駆使し、超伝導体のひねり積層体や次世代電界効果トランジスタの材料となる二次元構造など、自然界には存在しないナノ物質を創製することで、応用にもつながる新しい物性を見いだしていきたい」と意気込んでいます。

【取材・文=藤木信穂】