| 所属 | 大学院情報理工学研究科 情報・ネットワーク工学専攻 |
| メンバー | 村上 靖宜 助教 |
| 所属学会 | 電子情報通信学会、米電気電子学会(IEEE) |
| 研究室HP | https://sites.google.com/view/murakamilab/ |
| 印刷用PDF | 村上靖宜 研究室(PDF:1.1MB) |
掲載情報は2026年5月現在
アンテナ、電波伝搬、メタマテリアル、次世代移動無線通信
高速大容量、かつ低遅延で多数の端末を同時に接続できる第5世代移動通信(5G)が浸透し、その先のビヨンド5Gや6Gの実現も近づく中、大容量無線通信があらゆる領域で利用されています。例えば、製造や物流の現場においては、労働人口の減少やグローバル競争の激化などを背景に、IoT(モノのインターネット)をはじめとするさまざまなICT(情報通信技術)が導入されています。5Gでは28ギガヘルツ帯(ギガは10億)などミリ波帯の周波数が新たに割り当てられ、6Gに至っては、さらに周波数の高いサブテラヘルツ波帯(100―300ギガヘルツ)の活用が見込まれています。
村上靖宜助教は、こうした次世代無線通信の発展に貢献するため、特に5G/ビヨンド5Gの電磁波(電波)の通信環境の改善に向けて、メタマテリアル(人工媒質)技術を使った反射板や小型アンテナ、電波の伝搬を制御する手法の開発などを進めています。
最近の大きな成果が、情報通信研究機構と取り組んだ薄くて軽い「メタマテリアル電波散乱シート」の開発です。あらゆる方向からの電波を広角に反射(散乱)できるこのシートは、壁紙のように壁面に貼り付けるだけで、電波の届きにくい不感地帯を解消することができます。電源不要、かつ5Gの無線機器を増設することなく、28ギガヘルツ帯の5G通信エリアを拡大することができると期待されています。
一般に、高い周波数帯の電波は直進性が強いことから、電波を遮る障害物の後ろへ回り込む回折現象が起こりづらくなります。そのため、多様な大型設備が置かれている工場や物流倉庫などの現場では、電波の不感地帯が少なからず存在します。5G端末が搭載された無人搬送車や、5G端末を抱えて作業を行う人の移動などを考慮すると、この電波不感地帯はできるだけ少ない方がよいものの、これを解消するために基地局や中継局などの無線機器を増設すると、5Gの導入コストが膨らんでしまうという課題がありました。
そこで村上助教らは、メタマテリアル技術を使い、異なる反射特性を持つメタマテリアル表面と金属表面を組み合わせて並べたシート状の反射板を試作しました。電波を特定の方向にのみ散乱させる通常の金属反射板とは異なり、このメタマテリアル電波散乱シートは、電波をあらゆる方向に散乱させることができます。室内の天井や壁の一部に貼り付けるなど、さまざまな無線通信環境に対応できるのが特徴です。
実際にメタマテリアル電波散乱シートを使い、ミリ波帯を使った5G通信の基礎実験を行いました。その結果、障害物の陰になり、基地局からの電波を直接受信できない環境下において、シートで散乱した電波で5Gのデータ通信が可能なことを確認しました。さらに、受信信号の強度が十分に得られていないエリアでも、通常の金属反射板を使った場合に比べ、スループット(通信速度)を改善できることを示しました。
従来のメタマテリアル反射板や金属反射板は、設置の際に、通信環境に合わせて構造の再設計や最適化をする必要があり、また大量生産に向かないことから、コストの観点などからも導入は現実的ではありませんでした。「置くだけ、電源いらずのこのメタマテリアル電波散乱シートで現場の課題を解決できれば、ミリ波帯5Gの利活用を促すことができる」と村上助教は考えています。今後は企業と協力し、より軽量かつ安価で、窓ガラスなどにも貼り付けられる透明なシートの製造方法を模索するほか、電波の伝搬制御法の確立や、制御した電波の空間分布を精密に計測する技術の開発なども進める予定です。
このほか、村上助教はスマートフォンなど小型端末向けの薄型平面アンテナの開発にも取り組んでいます。波長の100分の1ほどの薄さながら、耐久性やデザイン性にも優れた反射板付きのアンテナを実現することができれば、端末や機器の小型化や薄型化に寄与できるでしょう。このように、「研究機関や企業などと共同で開発した技術を社会に広め、用途に応じた素材や製造方法などを検討しながら、社会実装に向けて研究を発展させていきたい」と村上助教は意気込んでいます。
【取材・文=藤木信穂】