| 所属 | 宇宙・電磁環境研究センター 大学院情報理工学研究科 情報・ネットワーク工学専攻 |
| メンバー | 菊池 博史 准教授 |
| 所属学会 | 米国電気学会(IEEE)、米国気象学会(AMS)、米国地球惑星科学連合(AGU)、日本大気電気学会 |
| 研究室HP | https://kikuchilabssre.wixsite.com/weatherlab |
| 印刷用PDF | 菊池博史 研究室(PDF:1.3MB) |
掲載情報は2026年5月現在
気象レーダ、フェーズドアレイレーダ、雷観測
地球温暖化に伴う気候変動を背景に、近年、世界中で気象現象による災害が頻発しており、日本でも豪雨の発生件数が年々増えています。内閣府では、被災者に対して特別な助成が必要と認められる災害などを「激甚災害」に指定しています。過去5年間のこの激甚災害24件の内訳を見ても、地震3件、林野火災1件を除く20件が気象災害であり、その大半を台風や豪雨など降雨による土砂災害や洪水被害が占めています。
そのような状況において、防災対策の観点からも、高精度な降雨観測システムの構築が喫緊の課題になっています。菊池博史准教授はこの分野において、豪雨や竜巻、雷などを引き起こす「積乱雲」を観測する電磁波リモートセンシング技術を開発し、自然災害の減災に貢献することを目標にしています。
気象庁の分析によると、この30年間で短時間豪雨の発生頻度は約2倍に増大しています。菊池准教授は「このような気象災害を引き起こす積乱雲は上空約5キロ-10キロメートルの場所に5分-10分ほどで発達する。そのため、降雨の3次元観測に5分以上かかる従来のパラボラ型気象レーダの観測網では十分に捉えきれず、避難誘導などのタイミングが遅くなってしまう」とその課題について語ります。
ゲリラ豪雨などをもたらす発達した積乱雲をリアルタイムに観測するためには、時間分解能が1分以下、空間分解能が100メートル以下の気象レーダが必要です。既存のパラボラ型レーダの時間分解能が5-10分であるのに対し、広範囲で3次元観測が可能なフェーズドアレイレーダは時間分解能が10-30秒と高く、また仰角方向の観測数がパラボラ型の約10倍であるなど高密度な観測が可能です。
菊池准教授は最近、大阪大学などと共同で、30秒ごとの全天観測が可能な気象用二重偏波フェーズドアレイレーダのデータを使って、強い上昇気流によって持ち上げられる大きな雨粒やひょう、あられなどの「雲内粒子」の塊を可視化し、地上の降雨量を定量的に予測できることを示しました。
雲の中には、ひょうやあられ、雪や氷晶などさまざまな粒子が混在していますが、このような雲内粒子のデータはこれまで観測頻度も低く、雨量の予測には使われてこなかったといいます。菊池准教授はこの成果により、「日本の夏季の非常に発達した積乱雲が作り出す高高度の粒子の塊が降雨量と関連があり、地上に豪雨が降り注ぐ5分-10分ほど前にこれらを検知できる可能性がある」と見込んでいます。さらに進んで、現在では、地表面付近の影響を受けにくい次世代フェーズドアレイレーダの開発にも着手しているそうです。
地上におけるもう一つの電磁波リモートセンシングの研究が、雷の観測装置の開発です。その中でも、特に周波数が数十キロ-数百キロヘルツ、検知範囲が200キロメートルまでのLF帯干渉計を用い、得られた3次元データを使って雷放電や電波源の測位に関する研究に取り組んでいます。
直近では、阪大などが推進するプロジェクトに参画し、世界的に珍しい冬の雷が多発する金沢市において多波長観測を行い、雷雲から下降する稲妻と、地上から上昇する稲妻が衝突する際の強い電場によって、「地球ガンマ線フラッシュ」と呼ばれる放射線バーストが発生することを世界で初めて明らかにしました。放射線センサーと電波アンテナ、可視光カメラを組み合わせた観測ネットワークで雷放電を集中的に観測し、その発生源を特定したことにより、雷放電がどのようにして放射線を発生させるかという詳しいメカニズムの解明が期待されます。
これは雷の現象を解明する理学的な研究ですが、菊池准教授はさらに雷のデータを使って、豪雨を予測する研究への展開も見すえています。降雨と雷の3次元観測を同時に手がける研究機関は珍しいそうです。「雷の9割は落ちず、1割だけ地上に落ちることもあり、雷害は豪雨による災害に比べて発生頻度は少ないが、我々はその1割の落雷地点を高精度に推定することで、そこから豪雨の予測を目指したい」と菊池准教授は考えています。
そのほか、国際宇宙ステーションからの雷観測や、人工衛星からの降雨観測といった宇宙からの電磁波リモートセンシングも手がけています。このように、菊池准教授は他大学や企業などとも連携しながら、「どの積乱雲がどの程度災害を引き起こす可能性があるか」をリアルタイムに判定し、洪水などの危険性を迅速に知らせたり、避難経路を誘導したりなど、災害時の効果的な情報提供につなげることを目指しています。
【取材・文=藤木信穂】