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研究室紹介冊子OPAL‐RING 李鯤 研究室

次世代無線通信のシステム開発と電波の安全性評価

所属 先端ワイヤレス・コミュニケーション研究センター(AWCC)
メンバー 李 鯤 准教授
所属学会 電子情報通信学会、米電気電子学会(IEEE)、国際電波科学連合(URSI)
研究室HP https://kunli-awcc.github.io/kl.github.io/
印刷用PDF 李鯤 研究室(PDF:1.6MB)

掲載情報は2026年5月現在

李 鯤
LI Kun

キーワード

移動通信、アンテナ、電波伝搬、生体電磁学、マルチフィックス解析

脳波や心電、脈波などの生理センサや、速度・加速度などの運動センサを人体の表面や内部に取り付け、人体近傍の無線通信「無線ボディエリアネットワーク」を介して信号を伝送することで、取得した生体情報を健康管理や見守りシステムに活用する技術が進んでいます。こうした各種ウェアラブル端末を用い、人体周辺エリアで高速、かつ信頼性の高い無線ネットワークを構築することにより、多様なアプリケーションが可能になります。

通信性能と安全性を両立する

李鯤准教授は、移動通信やアンテナ・伝搬、生体電磁学を基盤とし、特に無線ボディエリアネットワークの分野において、次世代ワイヤレス通信と電波の安全性評価を目的とした無線周波数電磁界(RF-EMF)の高度化に取り込んでいます。ワイヤレス領域では、主にアンテナや電波伝搬、電磁両立(EMC)を、RF-EMF領域では生体電磁学や電波安全性を考慮した通信システム設計や医療応用を研究テーマとしています。
具体的には、人体と高周波EMFの相互作用を解析・実験することを通じ、小型のウェアラブル端末や埋め込み型端末に加え、複数の送受信アンテナで通信経路を確立するMIMO技術を対象とし、実電波環境を模擬するOTA装置で端末性能を評価する「MIMO-OTAシステム」や、人体に対する電波のばく露安全性を評価する手法などを開発しています。李准教授は「無線通信性能と電波の安全性を両立させ、通信・ネットワークの最適化を実現する」ことを研究目標として掲げています。

研究領域

電波ばく露による生体安全性評価

例えば、生体電磁工学のテーマでは、EMFドシメトリ(ばく露量測定)のモデリングと動物実験、適合性試験を通じて電波ばく露への生体安全性を評価しています。高周波の影響としては、主に温度上昇に伴う「熱作用」があり、特にミリ波やテラヘルツ波といった強い高周波は人体表面の局所的な体温上昇を引き起こします。李准教授は、この熱作用に起因する電磁界ばく露量を中心に取り扱っています。
これまでに、ヒト前腕にばく露した実験から、皮膚における吸収電力密度(APD:単位面積当たりの吸収電力を体表面で平均化した量)と、これに起因する体表面の温度上昇との間に線形関係があることを明らかにしました。さらに、理論的なドシメトリの導出、電磁界分布に基づいた熱伝達の数値解析、医学部と連携したミリ波ばく露の動物実験という三つのアプローチで検証を重ね、妥当性の高い電波ばく露の評価手法を確立しています。
今後は、動物実験で得られたデータを人体の皮膚組織の温熱生理モデルに適用し、適切な熱パラメータを導入してミリ波ばく露時の温熱応答や細胞機能変化を数値的に解析していく予定です。また、李准教授は米電気電子学会(IEEE)の国際電磁安全委員会(ICES)の標準化活動にも参加しており、「ミリ波ばく露の人体安全性を評価する国際ガイドラインに基づき、この手法を標準化に向けて提案していきたい」と考えています。

インフラ建設現場に無線通信を導入

一方、通信EMCの分野では、トンネル工事などのインフラ建設現場で発破試験を自動化することを目指し、企業と共同で無線電子雷管発破システムを開発しています。現在の発破工事では有線システムを用いることが主流になっていますが、作業員が危険区域で長時間労働する必要があり、崩落リスクを伴うといった課題もあります。無線化によって発破工事を自動化できれば、雷管装填作業を無人化でき、老朽化が進むインフラの効率的な更新も可能になります。李准教授は理論解析とトンネル現場での測定データを基に、電波が弱まる「ヌル方向」を避けたアンテナ配置を提案し、実際のトンネル工事現場で国内初の無線発破試験に成功しました。この先はシステムの実用化と標準化を目指すそうです。

“スマートな”ボディエリア通信技術の開発

また、アンテナの分野においては、無線ボディエリアネットワークやスマート工場などIoT(モノのインターネット)応用に向けた研究も行ってきました。例えば、ウェアラブル端末の実現に向け、MIMO技術を用いた小型かつ大容量、給電回路一体型の偏波制御アンテナの開発や、OTA測定によるMIMO伝送容量の検証に取り組んでいます。将来に向けては、「セルフリーMassive MIMOなど、次世代ワイヤレス通信システムの伝搬チャネル特性に基づく、実験と解析を両立した端末アンテナOTA評価プラットフォームの構築を目指したい」と李准教授は展望を語っています。

【取材・文=藤木信穂】