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研究室紹介冊子OPAL‐RING 佐藤光哉 研究室

電波マップを基軸とした無線環境情報の利活用の推進

所属 人工知能先端研究センター
大学院情報理工学研究科
情報学専攻
メンバー 佐藤 光哉 助教
所属学会 米電気電子学会(IEEE)、電子情報通信学会
研究室HP https://www.ksatolab.aix.uec.ac.jp/
印刷用PDF 佐藤光哉 研究室(PDF:3.2MB)

掲載情報は2026年5月現在

佐藤 光哉
SATO Koya

キーワード

無線環境、6G、IoT、ガウス過程応用、時空間統計、機械学習

現実空間で収集したデータをサイバー空間上に再現する「デジタルツイン」の活用をはじめ、あらゆる事象の観測や解析の重要性が一層高まっています。デジタルツインによって、人やモノ、街全体を仮想的に作り出し、繰り返しシミュレーションすることなどが可能になります。一方で、センサとなるIoT(モノのインターネット)端末やスマートフォンの通信負荷の増大、無線周波数資源の枯渇など、そこには新たな課題が顕在化しており、第6世代通信(6G)の実用検討が世界的に進められています。
佐藤光哉助教は、こうした6G時代を見すえ、至るところに分散する膨大な観測データをいかに効率良く収集し、活用するかといった観点から、無線通信ネットワークやセンシングにまつわる課題の解決に向け、機械学習や時空間統計などの手法を用いて研究しています。
とりわけ、長年携わってきた無線環境を可視化した「電波マップ(Radio Map)」の構築手法を軸に、観測データを分散学習するための連合機械学習 (Federated Learning)の設計や、低遅延の分散ガウス過程回帰、適応的実験計画法による無線基地局の自動設計など、「センシングした無線環境情報の活用を中心テーマとして研究に取り組んでいる」と佐藤助教は語ります。

無線通信品質を可視化

電波マップとは、受信電力の強さをマップ上に表示することで、無線通信品質を可視化したものです。電波マップの活用により、例えば、6GやWi-Fiの無線リソースの使用を最適化したり、無人航空機の経路設計や端末のトラッキングの精度を高めたりといったことが見込めます。いずれの応用でも、マップの精度がシステムの性能に直結することは言うまでもありません。
佐藤助教は以前から、作成した電波マップの使い方などを示し、さまざまな無線通信システムへのマップの応用研究を進めてきました。近年、無線環境のデジタルツイン化への期待の高まりに伴い、この流れが国内外で加速しています。そこで、本技術をより手軽に使えるよう、デモプログラムを無償公開するなど、研究論文の執筆にとどまらず、すそ野の拡大にも努めてきました。

スマホで簡単にマップを生成

この電波マップの構築法から派生した研究テーマの一つに、電波マップの多次元内挿があります。これは、それまで同一周波数内における観測結果の空間補間のみに限っていた可視化の手法を、空間-周波数軸にまで拡張した多次元化技術です。佐藤助教は実際に、都内のセルラシステムを対象とした実験データを用い、この多次元内挿技術の有効性を実証しました。

同様に、電波マップの構築法をさらに発展させる研究として、イメージセンサを使い、電波マップを簡単に生成する技術を開発しました。これは、屋内の構造物を画像と深層学習によりモデリングし、その結果とレイトレーシングシミュレーションによって精度良く電波マップを生成する技術です。「深層学習で構造物のモデリングを自動化することで、普段使用するスマートフォンを使って、簡便かつ低コストに高精度なマップが構築できる」と佐藤助教は考えています。

測位不要の解析法も

さらに、電波マップに限らない環境情報(例えば、温湿度など)の解析を対象に、測位を伴わない空間回帰分析なども行っています。電波マップを含め、環境モニタリングの多くは全球測位衛星システム(GNSS)など端末側の測位機能に依存している上、測位においては精度とコストのトレードオフが存在します。そこで佐藤助教は、測位不要な解析法として、端末位置の確率分布やセンサ値の空間相関などを参考に、センサ間の相対的な位置関係を推定し、その結果に基づいて環境情報のヒートマップを作成する新たな方式を提案しました。これにより、張り巡らせた無線センサから環境情報の時間変動を集約するだけで、場所ごとの特性が可視化できると期待されます。

また別のテーマとして、分散型の機械学習に対する無線設計に関する研究も進めています。大量の観測データを1台のサーバで集中制御的に処理すると、演算量が膨大になることから、複数の端末で分散的にデータを処理することが期待されています。一般に端末のデータを分散的に処理する際、分散結果をサーバで合成すると効率が良くなりますが、その場合、合成時に端末台数に応じて通信の遅延が増大してしまうという課題があります。これに対し、佐藤助教はアナログ変調による分散情報の合成技術(空中計算)を導入することで、通信の遅延が観測データ数やノード数に依存せず、さらに演算量も大幅に減らせることを確認しました。

実験と検証を最小限に

そのほか、限られた実験回数で最適な条件を探索するフレームワークであり、製品設計や材料設計など幅広い分野への活用が見込める「適応的実験計画法」の無線応用を目指した研究も手がけています。効率の良い無線通信システムを設計する上で、複数の基地局をどのように配置するかという事前設計は非常に重要です。この手法を無線基地局の自動設計に応用し、限られた評価回数で基地局の配置やパラメータを効率的に設計できることを示しました。佐藤助教は「仮説、計画、実験、検証という製造工程のサイクルのうち、特に評価コストの高い『実験と検証』をなるべく少ない回数で済ませることができる」と期待しています。
以上のように、佐藤助教は電波マップの構築手法を基盤として、さまざまな応用技術へと展開しています。

【取材・文=藤木信穂】