| 所属 | 大学院情報理工学研究科 基盤理工学専攻 |
| メンバー | 加藤 峰士 准教授 |
| 所属学会 | 応用物理学会、日本光学会、レーザー学会、日本物理学会、OPTICA、日本コンピューター外科学会 |
| 研究室HP | http://www.kato-comb.lab.uec.ac.jp/index.html |
| 印刷用PDF | 加藤峰士 研究室(PDF:3.8MB) |
掲載情報は2026年5月現在
光周波数コム、光計測、光演算、3次元計測、分光計測、光ファイバ、モード同期ファイバレーザー
光周波数コム(光コム)は、高い制御性と高いコヒーレント性を持つ超短パルス列であり、これを周波数軸上で見ると、スペクトルが等間隔に並んだくし形(コム)になっていることから、光コムと名付けられました。光コムは光の絶対周波数を高精度かつ高安定に制御できる光源で、光の“ものさし”として有用です。連続波(CW)レーザーの周波数を高精度に決定したり、逆に所望の光周波数を持つようにCWレーザーを制御したりすることが可能になり、光計測分野において欠かせない光源となりました。
やがて、天文学や超精密分光などさまざまな分野への応用が進み、2009年には日本のものさしの基準となる「長さ」の特定標準器(国家標準)が、従来の「ヨウ素安定化He-Neレーザー」から、「協定世界時に同期した光周波数コム装置」へと改定されました。
加藤峰士准教授は、光周波数と位相を効果的に利用し、光コムを使ったさまざまな光計測手法や光源の開発を進めています。「見えないモノは測ることができず、測ることができないモノは作ることもできない。そのため光の性質を活用した超高速撮影による対象物の可視化や、精密計測の高精度化が求められている」と加藤准教授はその背景について説明します。
光コムの応用例には、何かと比較せずに距離を確定できる「絶対距離計測」や、原子時計に同期した光コムで光波長を測定する「光の絶対周波数計測」、原子や分子を広帯域に分光する「デュアルコム分光」などがあります。これに対し、加藤准教授は光コムで所望の光周波数や位相を持つ超短パルスを生成し、「異なる次元(時間・周波数・長さ)を自在に横断できる革新的な光学技術の開発」を目指しています。25センチメートル角の箱の中に、長さの国家標準と同じ構成を持つ、非線形偏波回転を利用したモードロックファイバレーザーを自作し、この光源を使って精密な計測技術の開発などに取り組んでいます。
一つ目のテーマが、光コムによる光フェーズドアレイの開発です。これは超短パルスを全帯域においてコントロールできる光コムを使った位相制御技術を基盤とし、光周波数で光の波面を制御する技術です。光集積回路を使った従来手法は、3次元計測が可能な3次元ライダー用の光源としての応用などが検討されています。これは、既存の光点走査手法であるガルバノミラーやMEMSミラーなどに比べ、圧倒的な高速走査が可能な点で優れています。
上述の通り、光フェーズドアレイは機械駆動によらない光点走査であり、速度や安定性の向上が見込めます。加藤准教授は光アンテナからの光の位相パターン次第で自在に波面を制御できる光フェーズドアレイを開発し、光の波面を制御することで、機械駆動なしに距離計測に向けた光点位置の高速走査に成功しました。現在、光位相変調器や光アンテナを光集積回路に作り込んだチップサイズの光フェーズドアレイが開発されていますが、光の位相制御に複雑な調整が必要で、さらに超短パルスのような広帯域光には適さないといった課題があります。光コムを使った広帯域光フェーズドアレイの実現は、これらの問題を解決するだけでなく、「周波数で空間を制御する光技術を確立したとの観点から、学術的な意義も大きい」と加藤准教授は語ります。
さらに、光を使った高精度なワンショット3次元計測手法の開発を目指し、「全光ヒルベルト変換による広ダイナミックレンジの瞬時3次元計測」を目指した研究も推進しています。3次元プリンターや自動運転など、3次元形状を読み取る技術のニーズが増えており、光コムによる光演算で瞬時に3次元計測ができれば、広いダイナミックレンジ計測と高速計測を両立でき、既存技術の空白領域を埋める高精度な3次元計測法が誕生します。加藤准教授はこれまでに、ナノメートル(ナノは10億分の1)寸法の分解能で1メートル程度の対象物の3次元計測が可能なことを実証しています。
そのほか、光コムで全帯域のキャリア位相を制御して完全な逆位相パルスを作り、これを用いることで計測に不要な光(背景光)を光で選択的に除去し、光断層計測や分光計測に応用する研究にも取り組んでいます。併せて、国際共同研究として、分光計測機能を持つ光コムを中空フォトニック結晶ファイバの光センサとして活用するため、ガス封入中空フォトニック結晶ファイバの基礎特性を評価する研究なども手がけています。
加藤准教授は、美濃島薫研究室や浅原彰文研究室と連携しながら、このように光コムを使った最先端の光学技術を開発し、民間企業とも共同研究などの可能性を模索しています。
【取材・文=藤木信穂】