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研究室紹介冊子OPAL‐RING 小泉直也 研究室

「空中像」の新しい使い方と作り方の提案

所属 大学院情報理工学研究科
情報学専攻
メンバー 小泉 直也 准教授
所属学会 日本バーチャルリアリティ学会、情報処理学会、電子情報通信学会、日本光学会、米コンピュータ学会(ACM)、米電気電子学会(IEEE) 日本バーチャルリアリティ学会、情報処理学会、米コンピュータ学会(ACM)
研究室HP https://www.media.lab.uec.ac.jp/
印刷用PDF 小泉直也 研究室(PDF:1.5MB)

掲載情報は2026年5月現在

小泉 直也
KOIZUMI Naoya

キーワード

VR、AR、MR、空中像、ディスプレイ、光学、インタラクション、ユーザインタフェース、CG、エンタテインメントコンピューティング、心理物理実験

バーチャルリアリティ(VR)や拡張現実(AR)の技術革新が進み、リアリティのあるコンピューターグラフィックス(CG)を投影するさまざまなテクノロジーが広がりを見せています。代表的なのが、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)などを使った視覚ディスプレイです。このような技術は、あたかもバーチャルな世界に入り込んだかのような体験が可能ですが、一方で、HMDなどの専用装置を装着する必要があり、体験者が限定されてしまうというデメリットがあります。

“浮現感”を高める

これに対し、VR/ARやヒューマンコンピュータインタラクションなどを専門とする小泉直也准教授は、現実世界に映像を映し出す「空中像」について研究しています。空中像は設置型の情報提示システムであり、人と映像が同じ物理空間を共有していることから、その場に集う誰もが同じ映像を裸眼で見ることができます。「HMDが高い没入感を持つことが特徴とするなら、空中像は、モノが浮かび上がったように見える『浮現感』を高められることが特徴と言える」と小泉准教授は語ります。

空中像技術は、ホテルやオフィスの受付、デジタルサイネージのほか、最近では店舗のセルフレジなどにも導入されつつあります。例えば、レジでは、レジ画面を空中に結像し、その浮かんだ映像をタッチパネルのように非接触で操作することができます。小泉准教授はこの分野において、「空中像を使う」「空中像を作る」という二つの軸で研究を進めています。

「グッドデザイン賞」受賞

まず、空中像をどう使うかという観点から、水面に映像を浮かび上がらせ、あたかも水の上にモノが浮いているかのような状況を作り出すことに成功しています。エンタテインメント向けコンテンツとして、水面に浮かぶ妖精の映像を実際に手ですくえるようにしたり、目の前の紅茶のカップに花が咲く映像を乗せたり、また、雨上がりの水たまりにカエルの映像を映し出したりする美しい映像表現を制作しました。光学的には、空中像の提示装置から出た光を特殊な光学素子(MMAP)で対称位置に結像させ、水面で反射させることによって空間中に再構成する仕組みです。これによって、あたかも水面上に映像が浮かんでいるかのように人の目には映ります。

水面に浮かぶ空中像

また、従来は固定式の大型提示装置が主流だったことから、より簡単に空中像を表示するため、透明なテーブルや床など光沢のある平面に置くだけで使える空中像装置も開発しました。身近なモノを反射面として利用し、光学系を設計して実空間に空中像を生成する際、反射面に映り込んでしまう周囲の物体の影など「映り込み」を偏光素子で除去し、空中像を際立たせて表示させるようにしています。「小型で持ち運び可能なため、不特定多数の人が訪れる公共空間などでも手軽に利用できる」(小泉准教授)そうです。こうした設計思想が評価され、開発したディスプレイ手法は、2019年の「グッドデザイン賞」を受賞しています。

空間の膨らみや厚みを表現

そのほか、空中像装置には不可欠なセンサーを隠すため、赤外線のみを反射するホットミラーを組み合わせるなどの光学的な工夫により、人からセンサーが見えないような形で空中像を自然に動かすインタラクティブなシステムなども制作しています。また、空中像の応用例として、空中に映したキャラクター像を愛らしく動かしたり、実在する物体の横に空中像で文字を埋め込んだり、空中像を手で押し込んだ時の感覚を測定したりといったデモンストレーションも行っています。「空中像は触った時の感触がないが、像に影をつけるなど絵画的な奥行きを設けることで、空間の膨らみや厚みなどを表現できるのではないか」と小泉准教授は考えています。

空中像のキャラクターを操作する

専門知識がなくても空中像を設計可能

もう一方の「空中像を作る」研究では、CG技術の一つであるレイトレーシングを導入し、専門知識がなくても空中像を制作できるデザイン手法を考案しました。光線のシミュレーションは一般的ですが、像の物理シミュレーションがCGで可能になれば、エンジニアの手を借りずに、デザイナー自身が空中像を設計できるようになります。

CGで物理シミュレーション

この手法により、CGで光学素子の挙動を再現した上で、実際にアクリル製の複雑な新型のMMAPを作製したほか、360度全方位から見える空中像装置なども開発しました。小泉准教授は「モノづくりのシミュレーションと同様に、空中像もあらかじめCGで模擬することにより、確度の高い空中像制作が可能になるほか、将来はそのCGをHMDで確認することで、VR空間上で空中像の設計や検証が効率良く行えるようになるかもしれない」と見通しています。このような空中像のさまざまな使い方と、作り方の提案を通じ、空中像の社会実装をさらに推し進めていく予定です。

CGで設計し、実際に作製した光学素子(MMAP)

【取材・文=藤木信穂】