掲載情報は2017年3月現在
所属 | 大学院情報理工学研究科 機械知能システム学専攻 |
![]() Shohei KAJIKAWA |
メンバー | 梶川 翔平 助教 | |
所属学会 | 日本塑性加工学会、日本材料学会、日本木材学会 | |
研究室HP | http://www.mt.mce.uec.ac.jp/ | |
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木質系材料、流動性、射出成形、木材鍛造、粉末成形、塑性加工
木造の建築物や木製の家具、食器など、木で作られたものは美しく温かみがあり、私たちに安らぎを与えてくれます。こうした木の“ぬくもり”が、プラスチックや金属などの人工物に感じられないのは、木そのものが生きた植物であるからでしょう。
木材の加工技術を研究する梶川翔平助教は、「木材を工業材料として普及させ、プラスチックや金属に代替できるようにしたい」と考えています。地球温暖化や資源の有効利用の観点から、近年、木材の活用が再び注目されています。
森林から切り出した木材は住宅や家具などに使われますが、これらがたとえ不要になっても、住宅の解体材や、製造工程で出る切りくずなどの廃材は、新たな資源として再利用できます。そのため、植林や伐採を計画的に行えば、木材は半永久的に使用できます。さらに、木材はカーボンニュートラルな(二酸化炭素(CO2)の収支を実質ゼロにする)材料であり、燃やしても大気中の CO2を増やしません。
しかし、こうした利点を持ちながら、木材が工業製品として使われていない原因の一つとして、加工性の問題が挙げられます。木材は、金属やプラスチック材料のように、加工時に変形させたり、流動させたりすることが難しく、大量生産の手法が確立していません。現在は、主に切削により加工していますが、加工に時間がかかることに加え、切りくずが材料の大半を占めるなど無駄が多いのです。産地によって生育環境も異なるため、個々の材質にバラつきが出てしまうのも工業材料として使いにくい要因です。
そこで梶川助教は、木材をあらゆる形に効率良く加工することを目指し、木材を粉末にして使うことにしました。粉末ならば、一般に加工しにくいとされる曲がった木や端材、廃材なども有効に活用できるからです。こうした形状で、プラスチックなどの成形に使う汎用(はんよう)的な金型を使い、加熱した材料に圧力を加えて加工する「プレス成形」や、材料を金型から押し出して成形する「押出し加工」、さらに、型に流し込んで形づくる「射出成形」を行いました。
まず、プレス成形により、接着剤などの添加物を全く使わずに、スギやブナ、ケナフコア、タケなど多様な木質系の材種で直径約10ミリメートルの円形の成形体を作製しました。
一般に、木質系の材料は、その構造から水分を含む状態で150度―200度Cに加熱すると次第に軟化し、加圧することによって流れやすくなります(流動性)。この流動性を持った材料を逆に冷却すると、自己接着の特性により再び固形になります。
押出し加工や射出成形では、木材のこうした性質を利用します。梶川助教は、木材を加熱する時間や温度を最適化し、金型に充塡する際の流動性を高めるために、飽和水蒸気による「蒸煮処理」を事前に施しました。これにより、プラスチック製品と見間違うほどの質感を持った、軽くて滑らかな木材の成形品が完成しました。強度もプラスチックと同等の水準を確保しています。
さらに、より複雑な形を作るには、流動性の一層の向上などいくつかの課題はありますが、近い将来、任意の形状の木材製品をたやすく量産できるようになるかもしれません。天然系の樹脂を混ぜることなども検討しており、強度も一段と高められそうです。
梶川助教は、木材は「プラスチックや金属を超える素材としての潜在能力がある」と期待しています。現在は高価な木材品ですが、短時間で効率的に製造できるようになれば、価格もずっと安くなり、身の回りにも普及するでしょう。まずは、「文房具や小型の家電などから木材を適用し、そのうち大型家電などにも使えるようになる」と考えています。
かつては森林伐採による環境破壊が社会問題になった時期もありましたが、木材の生産量は年々減少しており、現在では放置林の問題が取り沙汰されています。森林の活用が、今こそ求められているのです。
梶川助教は、木材加工の専門家として木材の普及を推し進めつつ、最近では、圧縮力を駆動力にした「絞り・張出し」法により、アルミニウム薄板を1工程で効率良く加工する技術を開発するなど、金属でも新たな研究をスタートさせています。
【取材・文=藤木信穂】