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研究室紹介冊子OPAL‐RING 岩崎敦 研究室

ゲーム理論と組合せ最適化の研究

所属 大学院情報理工学研究科
情報学専攻
メンバー 岩崎 敦 准教授
所属学会 人工知能学会、情報処理学会、日本オペレーションズリサーチ学会 ほか
印刷用PDF 岩崎敦 研究室(PDF:1.3MB)

掲載情報は2026年5月現在

岩崎 敦
IWASAKI Atsushi

キーワード

ゲーム理論、メカニズムデザイン、マーケットデザイン、アルゴリズム、計量経済学、反実仮想分析

自分の利得が相手が何をするかの影響を受ける戦略的状況における意思決定を扱う「ゲーム理論」は、経済学や数学の分野から発展し、現在ではビジネスの戦略や政治の分析、社会インフラ、医療の制度設計など幅広い場面で使われています。インターネットの検索エンジンにはゲーム理論や最適化の仕組みが導入されており、またマルチエージェント(複数のエージェント間の連携)システムに代表されるように、ゲーム理論はAI(人工知能)分野とも深く関わってきた歴史があります。

ゲーム理論はAI研究の最先端

「ゲーム理論と最適化」を専門とする岩崎敦准教授は、オークションとマッチングの制度設計(メカニズムデザイン)や、大規模ゲームの解を求めるアルゴリズムなどについて研究しています。例えば、以前話題にのぼったこの分野の事例として、東京都の公立高校入試への適用の検討があります。現行の単願制、または限られた少数の公立高校にしか同時に出願できない併願制では、合否に関して不公平な結果を生むことから、ゲーム理論のアプローチによる入試の制度設計が議論されました。こうした例が示すように、ゲーム理論は「人の行動やインセンティブを数理モデルで表すことにより、社会課題の解決へとつなげられる学問である」と岩崎准教授は語ります。

特にAIとゲーム理論については、インターネットや分散AIの発達、さらに利害の異なる複数エージェントの振る舞いを分析するツールの登場などを背景に、岩崎准教授は、単独のエージェントを前提とした技術のマルチエージェント化について世界で多くの業績を残してきました。「AIに関する世界最高峰の国際会議では、『機械学習』分野に次いで『ゲーム理論と経済』分野の発表件数が多いことからも分かるように、ゲーム理論はAI研究の最先端を担っている」(岩崎准教授)のだそうです。

社会実装が進むメカニズムデザイン

ここで、岩崎准教授が研究対象とする組み合わせ最適化と制度設計、すなわちメカニズムデザインについてご説明しましょう。メカニズムとは、商品やサービスを一番欲しいと思う(≒お金を払う気がある)人たちに割り当てる「資源配分問題」を解く手続きのことです。
 そこで問題となるのが、「人は自分の利益を増やすために、戦略的に嘘をつくかもしれない」ということです。したがって、人が正直に振る舞う誘因を与えられるように割り当てを決める必要があり、これこそが岩崎准教授が注力する「誘因制約付き組み合わせ最適化」と呼ばれる問題です。組み合わせ最適化やAIなどの「情報学」に、ゲーム理論やメカニズムデザインなどの「ミクロ経済学」の手法を導入したこの文理融合領域は近年、社会実装に向けて大きく前進しており、同時に、現場の問題を解決するメカニズムデザインの工学的応用として、研究でも一大領域を形成しつつあります。

メカニズムデザインの代表的な実践例に、周波数オークションや国債の販売、キーワード広告などのオークション分野のほか、前述した学校選択制や臓器移植ネットワークといったマッチング分野があります。岩崎准教授はこれまでに、架空名義操作が不可能なメカニズムの設計・解析、最適化を用いたメカニズム設計の自動化といったオークションのメカニズムに加え、下限制約を満たすメカニズムの設計・解析などマッチングのメカニズムについても研究してきました。一例として、学生の選好に応じてフレキシブルに研究室へ学生を割り当てる「研究室配属問題」や、アメリカンフットボールにおいて戦術を決定する均衡計算などのテーマがあります。

制約付きマッチングの実証

最近では、制約付きマッチングの実証として、研修医を病院に配属する際、マッチング結果に制約を課す新たな研究に取り組みました。離島やへき地の病院に一定数の医者を配属するため、研修医がどの病院に配属されたかという実際のデータから、研修医と病院がマッチすることで得られる効用を推定し、課税規則の影響を「反実仮想」の手法により分析します。その結果、人気のある病院や地域に税金をかけると、どれだけ配属数を抑えられるのかや、人気のない病院や地域の配属数を増やすには、どれだけの補助金が必要になるのかを明らかにすることができたそうです。

過去には、警備計画の策定に向けて、密輸船を取り締まり、輸送船を警備する海上警備や、密猟などを監視する野生動物の保護、荷物検査や検問を行う空港警備、人が巡回する鉄道警備などに関する求解アルゴリズムを研究してきました。「相手がどの場所を攻撃してくるかに応じて、少ないリソースでも警備計画を策定できる」(岩崎准教授)ようになれば、警備を効率良く実施できるようになるでしょう。

大規模ゲームの均衡計算

さらに、大規模ゲームの分野では企業と共同で、オンライン学習アルゴリズムの知見を利用した大規模ゲームの均衡計算に取り組んでいます。例えば、ポーカーやボードゲーム「ストラテゴ」などのいわゆる不完全情報ゲームにおいて、昨今、ゲームの均衡を近似的に計算するアルゴリズムが発展したことから、AIがプロに勝利する事例が増えており、岩崎准教授はこうした新しいアルゴリズムの提案を試みています。
 このようにAIの一領域としても進展してきたこの分野で、岩崎准教授は「ゲーム理論の考え方を提供し、企業などと議論を進めながら、研究を社会に役立てるようチャレンジしている」と話しています。

【取材・文=藤木信穂】