| 所属 | 大学院情報理工学研究科 基盤理工学専攻 |
| メンバー | 酒井 剛 教授 |
| 所属学会 | 日本天文学会、国際天文学連合 |
| 研究室HP | http://www.t-sakai.cei.uec.ac.jp/ |
| 印刷用PDF | 酒井剛 研究室(PDF:1.3MB) |
掲載情報は2026年5月現在
電波天文、ミリ波、サブミリ波、テラヘルツ波、導波管、超伝導ミキサ、星形成
宇宙には無数の星が輝いていますが、その中でも太陽の10倍ほど重い星(大質量星)がどのように誕生するのかは、今なお完全には解明されていません。このような星が生まれる過程のガスの組成を電波を用いて観測することにより、星の周囲にどんな分子がどれだけ存在しているのかを明らかにすることができます。それはまた、生命に関わる分子を探ることで、いのちの起源に迫ろうとする壮大な探求でもあります。
国立天文台の出身でもある酒井剛教授は、この電波天文学の領域において、電波望遠鏡を使って星の形成メカニズムを明らかにする天文観測に加え、その観測のための装置の開発までを手がけています。そこではできるだけ高分解能の電波望遠鏡を用いた、精度の高い観測データが求められます。酒井教授が装置開発で特に力を入れているのが、南米チリのアタカマ砂漠にある大型ミリ波望遠鏡「アルマ望遠鏡」の受信機の開発です。
アルマ望遠鏡では現在、望遠鏡の解像度を高め、同時に観測できる周波数帯域を2倍以上に拡張する「アルマ2計画」が進められており、惑星の誕生の過程や物質の進化をより詳細に観測することを目指しています。ここで必要となる広帯域で高感度な受信機の開発に向けて、酒井教授は国立天文台と共同で、高い臨界電流密度を持つ、超伝導体で薄い絶縁体を挟んだ高品質なトンネル接合(SIS接合)を作り、これによって高性能な受信素子を作製しました。
受信機の心臓部となるこのSIS接合において、超伝導体のニオブ薄膜と絶縁体の酸化アルミニウム薄膜の間にアルミニウムの薄い層を設けることで、素子の性能を劣化させるリーク電流を減らすことに成功しました。この研究が進展し、現在ではアルミニウムを窒化アルミニウムの層に置き換えることで、より性能を向上できることが分かっています。アルマ望遠鏡では、宇宙から届く電波を直径12メートルのパラボラアンテナで集め、マイクロメートル寸法(マイクロは100万分の1)で加工したこうした微細な素子で受信しているのです。
さらに、酒井教授は受信機に組み込む広帯域ミキサの開発にも取り組んでいます。これは275ギガ-500ギガヘルツ(ギガは10億)の導波管の回路(90度ハイブリッド回路)で、この回路の性能を電磁界解析により検証し、高精度な設計と製作を行いました。ほかに、3ギガ―21ギガヘルツのマイクロ波の超伝導ハイブリッドカプラ回路の開発なども試みています。
こうした回路技術は、電波望遠鏡以外にもさまざまな応用が可能です。例えば、多様な分子が出すスペクトル線の周波数を実験室で測定できる理化学研究所の分子分光装置「SUMIRE」に活用されたり、情報通信研究機構が開発中の1.5テラヘルツ(テラは1兆)帯の周波数を観測できる受信機(ホットエレクトロンボロメータ)などに生かされたりしています。これらはいずれも酒井教授が開発に協力しています。
そのほか、酒井教授はメキシコのシエラネグラ山の山頂にある大型ミリ波望遠鏡「Large Millimeter Telescope(LMT)」のプロジェクトに受信機開発の統括リーダーとして参画しています。これはアルマ望遠鏡の受信機と同等の感度ながら、5倍の帯域幅を持つミリ波・サブミリ波受信機「FINER」を開発する研究計画です。これにより、宇宙誕生後の数億年の間に生まれた銀河の高感度な観測などが行われる予定です。
このように天文観測をメインとする酒井教授が装置開発にも力を注ぐのは、「電波望遠鏡の受信機の性能が観測データを左右する」(酒井教授)と考えているからです。アルマ望遠鏡で観測できる最大の周波数は950ギガヘルツですが、それを超えるテラヘルツ帯の受信機が開発できれば、南極に建設が計画されているテラヘルツ望遠鏡への搭載や、将来、期待される宇宙空間や月面でのテラヘルツ帯の観測などに生かせるでしょう。
同時に、テラヘルツ帯における高分解能の分光技術は、分子科学研究の発展にも貢献するなど、他分野に活用できる点も見逃せません。そのために、酒井教授は国内外のさまざまな研究機関や企業と連携して研究を進めています。
【取材・文=藤木信穂】