| 所属 | 大学院情報理工学研究科 機械知能システム学専攻 脳・医工学研究センター |
| メンバー | 小泉 憲裕 准教授 |
| 所属学会 | 米国電気電子学会(IEEE)、アメリカ機械学会(ASME)、日本超音波医学会、日本ロボット学会、日本機械学会、日本コンピュータ外科学会、精密工学会、日本音響学会 |
| 研究室HP | http://www.medigit.mi.uec.ac.jp/ |
| 印刷用PDF | 小泉憲裕 研究室(PDF:1.4MB) |
掲載情報は2026年5月現在
医デジ化(Me-Dig IT PRO)、超音波診断/治療ロボット、非侵襲超音波医療診断・治療統合システム(NIUTS)、遠隔超音波診断システム(RUDS)、強力集束超音波(HIFU)、患部(病巣)追従、体動補償
「医デジ化」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。小泉憲裕准教授が提唱した、「医療技能の技術化・デジタル化」という概念の略称です。医療やバイオ分野は近年、デジタル化によって大きな変革を遂げています。小泉准教授は、特にロボットを医療に導入することで、診断や治療を高度化する研究に取り組んでいます。
医デジ化の大きな目的は、「“医師の世界観”をデジタル技術で再現し、全国どこにいても安全・安心で質の高い医療を享受できるようにすること」だと小泉准教授は語ります。医師の技能(スキル)を「機能」として抽出し、それをデジタル化してシステムに実装すれば、熟練医のように診断や治療が行える医療支援システムが実現できるという考え方です。
コロナ禍を経た現在、従来の対面診療に加えてオンライン診療が浸透しつつあり、さらには国産の手術支援ロボットが開発されるなど、その先のAI(人工知能)診療やロボティック診療も視野に入ってきています。
医デジ化による高精度な診断・治療に向けて、小泉准教授は「医療ロボット機構」と「医療ロボット制御」、またAI技術を活用した「医用画像処理・アルゴリズム」の三つのテーマを軸に研究を進めています。互いに影響し合うこれらの技術をそれぞれ磨くことで、医デジ化が進展していくというイメージです。(図1/タイトルあり) 小泉准教授は、特にロボットを使った超音波診断・治療システムの開発に力を入れています。超音波診断装置は多くの病院にある一般的な医療機器ですが、昨今では、エコーなどの画像診断だけでなく、超音波を一点に集めて患部に当て、開腹手術をせずにがんなどを破壊する治療法が普及しつつあります。生体を傷つけないため(非侵襲)、患者の負担が比較的軽く、放射線と違って被ばくしないことなどが特徴です。
その中で、機械工学的な動作機構について研究する医療ロボット機構のテーマでは、最近、企業との連携により、医療用X線撮影台の機構技術をベースとし、胸腹部の超音波診断・治療に向けて、患者の体位や呼吸動などの「体動」を再現するロボットを開発しました。ファントム(人体模型)によるこの姿勢の制御機構を実現したことで、人間を被験者とせずに、ファントムモデルでの実験が可能になります。こうした検証段階を経て、実際の患者へ超音波診断・治療を適用することを目指しています。AI援用のロボティック医療支援システム上にデジタルに実装される、機能関数群(Me-Dig IT PRO Functions)の構造によって、医療の専門家の「診断・治療技能とは何か」という問いに対して、構成論的に極限まで迫ることができると国内外の研究者から強く期待されているのです。
超音波診断においては、適正な医療画像を取得することも欠かせません。医療系の学会でも美しい診断画像をいかに撮影するかといったテーマが真剣に議論されているそうです。超音波診断では、超音波センサー(プローブ)を患部に押し当てて医療画像を取得しますが、その際、ターゲットに合ったプローブを選択した上で、「ガンや結石といった病変部を、周囲とは一線を画す『特異点』ととらえ、その特異点を地図記号のようにマーキングしながら抽出し、フレームの中央に入れた構図で撮影することが重要だ」と小泉准教授はいいます。
そのために、ファントムの肋骨の間(肋間)にプローブを挿入し、音の跳ね返り(音響シャドウ)を計測しながら構図を調整し、診断画像を適正化する研究などにも積極的に取り組んでいます。
一方、医療ロボット制御の研究は、小泉准教授が長年にわたって進めてきたテーマです。約10キロメートル離れた場所にいる患者にロボットを使って遠隔で超音波診断を行うシステムを世界で初めて開発し、2001年には、この遠隔超音波診断システムで世界初の臨床診断を行いました。
その後、1ミリメートルの精度でがんなどの患部の位置を検出しながら、超音波を照射するシステムを開発しました。体動の約90%を補償しながら、患部の動きに追随してシステムを自動で動かすことで、既存の静止型の治療装置よりも、超音波を照射する際の位置合わせの精度を数倍に高められます。超音波を2方向から当てて、まず患部の位置をつかんだ上で、治療用の超音波を患部に当てる仕組みです。
システムは年々高度化し、現在では、臓器の腫瘍の3次元形状モデルを作成し、患者の動きに合わせて臓器を3次元でリアルタイムかつ精度良く追従するなど、遠隔診断でも通常の診断と同等の精度を確保できることを確認しています。
さらに近年、その診断精度を飛躍的に高めているのが、生成系AIなどを活用した医用画像処理・アルゴリズム、いわゆる「ロボットビジョン」の研究です。例えば、生物医学画像を分割するために開発された畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を使い、入力画像に対し、画像を折り畳みながら階層的に解析してマッチングすることで、臓器や腫瘍、結石などの特徴量を高精度に抽出できるようになりました。
小泉准教授は、こうした技術を実装した超音波診断・治療システムとして、前立腺肥大症のスクリーニングシステムや、がん治療と機能の温存を両立する前立腺がんの標的局所療法の術中モニタリングシステム、がんや結石を自動で抽出して追従するベッド型ロボットシステムなどを大学病院と共同で開発し、臨床現場への導入を進めています。
最終的な診断は医師が下しますが、医療画像をどのように解釈するかといった、まさに“医師の世界観”をロボットが再現できれば、医師の負担が大きく軽減され、医療技能の底上げにもつながります。
医デジ化は、メディカル(医療)とデジタル技術(IT)の融合という意味で、英語では「Me-Dig IT PRO(メディジット・プロ)」という造語で表現しています。世界三大発明の一つである「活版印刷術」が情報の複製(コピー)技術を生み出し、今日の情報革命につながったように、「医療技能をデジタル化し、それをコピーすることによって、知識が共有化され、医療における新たなイノベーションにつながるのではないか」と小泉准教授は期待しています。
【取材・文=藤木信穂】