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研究室紹介冊子OPAL‐RING 武者満 研究室

極限まで安定化した光源の開発とその応用

所属 大学院情報理工学研究科
基盤理工学専攻
レーザー新世代研究センター
メンバー 武者 満 教授
所属学会 日本物理学会、応用物理学会、レーザー学会
研究室HP https://www.ils.uec.ac.jp/~musha/index.html
印刷用PDF 武者満 研究室(PDF:2.7MB)

掲載情報は2026年5月現在

武者 満
MUSHA Mitsuru

キーワード

超高安定レーザー、精密計測、重力波、人工衛星搭載用光源、周波数基準、時刻同期、光通信

長さや時間の測定など、精密な計測には安定した光源が欠かせません。例えば、宇宙から届く10のマイナス23乗ほどの微弱な振動である「重力波」の検出においては、高い安定性を持つ高出力なレーザー光を、正確な“ものさし”として使っています。

究極の精密計測に向けて

武者満教授は、レーザーを用いて極限まで安定化させた光を作り出し、こうした究極の精密計測に向けた光源の開発に長年取り組んできました。重力波検出器用の光源の開発からスタートし、現在では衛星測位システムや光格子時計、光通信に用いる光源の開発に至るまで広範な研究を手がけています。「重力波検出で培った安定化光源の技術は、光をいかに劣化させずに遠くまで運ぶかという精密配信や、光を用いた精密分光など、さまざまな分野への応用が見込める」と武者教授は考えています。

重力波検出器の分野では、これまで国立天文台の「20メートル干渉計」や干渉計型重力波アンテナ「TAMA300」、岐阜・神岡に設置された大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」などのプロジェクトに参画し、精密なレーザー光源を開発してきました。これに続き、近年では宇宙誕生直後の姿を直接観測することを目指す、0.1ヘルツ帯干渉計型重力波天文台「DECIGO」の光源開発に加え、そこで用いる人工衛星間の相対位置を測定するレーザーシステムの開発も担当しています。

小型光源とレーザー衛星捕捉システムの提案

DECIGOは、宇宙空間に3台の人工衛星を1000キロメートルずつ離して正三角形状に配置し、重力波によって引き起こされる衛星間距離のわずかな変化をレーザー干渉計で計測する計画です。武者教授はこれに向けて、ヨウ素を周波数基準とする安定化光源として、波長515ナノメートル(ナノは10億分の1)の緑色の外部共振器型半導体レーザーを開発し、高出力ながら衛星に搭載可能な小型光源として作り込みました。

DECIGO向けヨウ素安定化レーザー

さらに、複数の衛星を連携させながら精密に編隊飛行させるためには、それぞれの衛星の位置を正確に測定するシステムが不可欠です。武者教授は、宇宙空間に必須となる長距離の測角・測距技術として、レーザーを用いた衛星捕捉システムを提案しています。具体的には、DECIGOの前段階として宇宙科学研究所などが進める実証衛星「SILVIA」計画に加わり、角度や長さを光の周波数情報として読み取る音響光学偏向子を使ったシステムを開発しました。現在までに、角度精度20マイクロラジアン(マイクロは100万分の1)、測長精度数メートルを達成し、1000キロメートル級の衛星捕捉に適用できることを実証しています。

アルマ望遠鏡、SACLA、光格子時計プロジェクトに採用

こうした技術を活用し、安定化光源の宇宙利用を加速させるため、宇宙航空研究開発機構(JAXA)との共同研究として、準天頂測位衛星システム「みちびき」に搭載する安定な周波数基準の開発も進めています。ルビジウムを用いた現行のマイクロ波原子時計に代わる周波数基準として、ヨウ素安定化レーザーの光周波数基準に光コムを同期させ、次世代の測位衛星に求められる10のマイナス15乗台という精密なマイクロ波を取り出す発生装置を考案しました。これにより、全球測位衛星システム(GNSS)のさらなる高精度化に貢献することを目指しています。
そのほか、光ファイバーを用いた100キロメートル以上の遠距離信号伝送において、ファイバー長の変動を精密に測定し、補正する精密配信なども進めています。武者教授が開発してきた精密計測・制御技術は、大型ミリ波望遠鏡「アルマ望遠鏡」やX線自由電子レーザー施設(SACLA)、ストロンチウム光格子時計とセシウム原子時計の周波数比較といった大型プロジェクトに応用され 、いずれにおいても厳しい技術要求を満たしてきました。

精密配信のさまざまな国家プロジェクトへの応用

光通信への応用も

また、企業との連携では光通信分野への適用として、1.5マイクロメートル通信波長帯の絶対周波数基準となる、従来より簡便で高い安定性を持つアセチレン安定化レーザーの開発や、25ギガ―125ギガヘルツ(ギガは10億)の周波数帯で位相同期された光源の開発などにも取り組んできました。武者教授は、「極限まできれいにしたこのような光源を、基礎科学から産業応用まで幅広く展開し、多様な分野に普及させていきたい」と語っています。

企業などとの共同研究

【取材・文=藤木信穂】