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UECで究める

研究室紹介冊子OPAL‐RING 安藤創一 研究室

運動による生体の変化を科学する

所属 大学院情報理工学研究科
機械知能システム学専攻
メンバー 安藤 創一 准教授
所属学会 日本体力医学会、日本運動生理学会、日本体育学会、日本バイオメカニクス学会、日本トレーニング学会、ヨーロッパスポーツ科学学会、アメリカスポーツ医学会、国際電気生理運動学会
研究室HP https://sites.google.com/view/sports-science-lab/home
印刷用PDF 安藤創一 研究室(PDF:1.0MB)

掲載情報は2026年5月現在

安藤 創一
ANDO Soichi

キーワード

運動、脳、骨格筋、電気刺激、生体計測、健康・スポーツ科学、エイジング、高齢者、ヘルスケア、身体活動

適度な運動がヒトの身体に良い影響を及ぼすことに、もはや異論はないでしょう。膨大なデータや検証を通じて、現在では運動がヒトの認知機能を高めたり、認知症の予防につながったりすることが広く知られるようになりました。一方で、運動によってヒトの身体がどのように変わるのかについては、今なお解明されていない部分が数多くあります。

エビデンスを提供

「健康・スポーツ科学」をうたう安藤創一准教授の研究室では、「運動による生体の変化を科学する」ことを掲げ、運動時にヒトの身体に何が起きているのかについて研究しています。運動すると、汗をかいたり、心拍数が上がったり、血流が良くなったりといった変化が起こります。また、一口に運動といっても、1回のエクササイズから、数週間-数カ月にわたるトレーニングまでさまざまあります。
 こうした運動に対する身体の応答や適応について、安藤准教授は骨格筋や呼吸循環系の変化から、認知パフォーマンスや気分の変化、さらには脳の機能や構造に至るまで幅広い事象をテーマにしています。目指す研究のゴールについて、安藤准教授は「健康の維持・増進やスポーツのパフォーマンス向上につながるエビデンスを提供し、それを実践すること」と語ります。

PETやfMRIを使って運動時の脳をみる

運動はたとえ一過性であっても、認知パフォーマンスを高めることが分かっています。安藤准教授はその機構の解明に向けて、ポジトロン断層法(PET)を使って脳の神経伝達物質であるドーパミンの運動との関与について調べたり、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を使って運動時の脳の神経活動や脳領域間のネットワークの変化、脳の構造との関係を検証したりしています。
 近年の大きな成果の一つとして、運動によって脳内で起こるドーパミンの遊離が、認知パフォーマンスの高まりに関係することを明らかにした東北大学との共同研究があります。1回の有酸素運動でも認知パフォーマンスが上がることは知られていましたが、従来、それらの評価は認知に関する課題を解く際の「反応の速さ」を主な指標としており、この反応の速さの向上は「運動に伴う覚醒レベルの上昇」などに起因するとされてきました。しかし、運動によって反応時間が数十ミリ秒ほど短くなるというそのメカニズムの詳細は解明されていませんでした。

1回の有酸素運動で脳内のドーパミンが遊離

そこで安藤准教授らはドーパミンに着目し、PETを使った検証実験により、1回の有酸素運動によって脳内でドーパミンが遊離することを突き止めました。併せて、運動中に被験者に認知課題を解いてもらい、その反応の速さを認知パフォーマンスの指標として評価したところ、ドーパミンの遊離と認知課題に対する反応の速さとの間に相関関係があることが分かりました。

図1:PET断層像

さらに、電気刺激(EMS)によって下肢に骨格筋の運動(筋収縮)を促す実験などを行いました。その結果、運動による認知パフォーマンスの向上には、こうした筋収縮に伴う身体の生理的変化だけでは不十分であり、そこに自らの意思で行う「随意運動」を加えることによって、脳内の神経活動がより活発になることが明らかになりました。
 ドーパミンは認知機能や運動制御のみならず、パーキンソン病や統合失調症、うつ病、注意欠如・多動症などさまざまな疾患に大きく関係しています。安藤准教授は「高齢者など激しい運動が困難な方が認知機能を高めるために、例えば、EMSを与えながら上半身を軽く動かしたり、握力を鍛えたりといったエクササイズが有効かもしれない。また、1回の運動だけでなく、習慣的な運動によってより大きな効果が見込めるだろう」と考えています。

骨格筋への電気刺激で健康寿命を伸ばす

最近では、骨格筋へのEMSが健康寿命の延伸につながるかどうかを検証する研究にも乗り出しています。現在までにこの“EMSトレーニング”によって、大腿(だいたい)筋が肥大したり、血管の硬さを反映する「動脈スティフネス」が低下したり、持久力が向上したりといった結果が出つつあります。そのほか、他大学と協力し、磁気共鳴断層撮影装置(MRI)を使って、高齢者の運動習慣が脳や骨格筋の形態、機能に与える影響なども調べ始めています。

図2:大腿四頭筋の筋横断面積
図3:骨格筋に電気刺激を与えている様子

安藤准教授は体育の教員でもあり、本学のサッカー部監督や東京都の大学サッカー連盟理事も務めています。「アスリートから中高年、さらに運動が難しい方の運動の代替手段としてや、病弱な方向けの運動療法に至るまで、EMSの潜在的な可能性は大きい」と安藤准教授は見込んでおり、国内外のさまざまな機関と連携しながら、健康の維持・増進に向けた多様な研究活動を進めています。

【取材・文=藤木信穂】