| 所属 | 大学院情報理工学研究科 基盤理工学専攻 |
| メンバー | 庄司 暁 准教授 |
| 所属学会 | 応用物理学会、分光学会、レーザ学会、米国光学会(OSA)、国際光工学会(SPIE)、米国材料学会(MRS) |
| 研究室HP | http://www.phomat.es.uec.ac.jp/japanese/HOME.html |
| 印刷用PDF | 庄司暁 研究室(PDF:1.6MB) |
掲載情報は2026年5月現在
レーザ顕微鏡、分光技術、ホログラフィ、光放射圧、自己組織化、ソリトン形成、カオス現象、プラズモニクス、ナノサイズ効果、非線形光学
ナノメートル(ナノは10億分の1)スケールの微細な世界では、物質は私たちが日常で目にするものとは異なる性質を示すことがあります。こうした極微の領域を観察し、物質を操作する強力な手段となるのが「光」です。
光でナノ構造の物質(マテリアル)を作り、それを見て、触って、動かす「PHOMAT」研究室を掲げる庄司暁准教授は、レーザーを操り、分光や顕微鏡、非線形現象、ホログラフィ、光放射圧、自己組織化、プラズモニクスなどの原理や技術を使ってさまざまな微細構造を作製しています。ただサイズの限界に挑むだけでなく、ミクロな構造の中にも、「将来、デバイスとして使えるような新しい“機能”を見いだしたい」と庄司准教授は考えています。
例えば、金属粒子の一つである金ナノ粒子を液体中に分散させたコロイド溶液は、粒子の形や大きさに応じて、赤や青、黄色、緑など多様な色彩を示します。長さ数十ナノメートルの棒状粒子である金ナノロッドを電子顕微鏡で観察すると、長さと太さのアスペクト比(縦横比)の違いによって溶液の色が変化することが分かり、また吸収スペクトルを見れば、そのことが一目瞭然です。こうした現象は、ナノ粒子に光が当たると特定の波長の光を強く吸収したり散乱したりする「局所プラズモン共鳴」によって説明することができます。
ナノ粒子はまた、自己組織化により自ら配列し、3次元構造を作ることもあります。庄司准教授は、銀ナノ粒子に着目し、溶液中で銀イオンを急激に還元して自己組織化によって銀の樹状結晶(銀樹)を作製しました。得られた銀結晶は一見すると不均一ですが、細部に目をやると、木の枝や葉脈を思わせる自己相似的な複雑な階層構造(フラクタル構造)を持っていることが分かります。この銀結晶を暗視野顕微鏡で観察したところ、まるで夜空を見ているかのように、赤や青、黄色、緑など多彩な光が強まったり弱まったりしながら、キラキラと輝く様子が見られました。現在、このナノ構造が示すスペクトルなどの光学特性について、測定と理論解析の両面から研究を進めています。
一方、レーザー光で微粒子を自動で選別する技術も研究しています。微細な流路内を流れる粒子に対して垂直方向からレーザー光を当てると、光の圧力を受けた粒子の進行方向がわずかに変化します。その際、粒子の大きさや形状によって受ける力が異なるため、この差を利用することで粒子の分離・抽出が可能になります。実験では、数百ナノメートルサイズの乳酸菌を抽出できたほか、同じ大きさでも形状の異なる金ナノ粒子と銀ナノ粒子をきれいに分離することができました。
また、局所プラズモン共鳴を応用した研究として、庄司准教授は「中空マイクロガラス管」を使った高感度ラマン分光分析法を開発しました。直径約10マイクロメートル、長さ1センチメートルほどの中空のガラス管の内壁に金属ナノ粒子を付着させ、管内にレーザー光を照射します。すると、局所プラズモン共鳴によって試料分子から表面増強ラマン散乱(SERS)が起こり、発生したそのSERS光をガラス管の先端まで導波させ、分光器に入れでスペクトルを測定します。
この方法はシンプルな光学系で、微小なチップ状に作り込める上、ガラス管を長くすれば検出感度を高めることができます。また、必要な試料の体積は水1滴の1万分の1とごくわずかであるそうです。試作した中空マイクロガラス管SERSチップは、平面のSERS基板を使う従来法に比べ、より低濃度の試料を高感度に検出できることから、庄司准教授は「河川や土壌などの環境検査、農作物に付着する薬物の検査などに役立つのではないか」と期待しています。
さらに、この中空ガラス管の内壁に、直径250ナノメートルのシリカの微粒子を自己組織化によって周期的にらせん配列させ、チューブ状のフォトニック結晶が形成できることも示しています。
そのほか、細く引き伸ばしたガラス管(キャピラリー)は、楽器のように特定の周波数で振動する「ミクロ振動子」として機能することも確認しました。長さや太さの異なる複数のガラスキャピラリーに、微量の液体や気体、または液晶などの試料を入れ、振動数のズレを検出することにより、例えば、物質に力を加えた時の変形や流れやすさを解明するレオロジー分野などで「材料の粘弾性を微細なスケールで評価する」(庄司准教授)といった使い方が将来、可能になるかもしれません。
このように、光の色によってナノ粒子を分離したり、光の圧力で粒子を積み上げたり、光の散乱を利用して分子や結晶の振動を検出したりなど、光を駆使してナノの世界を自在に操る研究を通じて、庄司准教授は「自然界のミクロな構造を理解し、その仕組みを新しい機能性材料の開発や高度な計測技術に生かしたい」と考えています。
【取材・文=藤木信穂】