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【ニュースリリース】量子力学のシュレディンガー方程式の新しい解析解を発見―混合次元エフィモフ状態の普遍的性質を量子欠損理論で解析的に決定―

2026.05.01

ポイント

  • 1/rおよび引力的1/rポテンシャルを持つシュレディンガー方程式の解析解を初めて導出した。
  • 3次元と1次元の混合次元系におけるエフィモフ状態の挙動が、斥力の場合に双極子長スケールによって普遍的に決まることを明らかにした。
  • 本成果は、極低温まで冷却した極性分子からなる量子三体系の理解や、実験観測に向けた理論的基盤となる。

概要

大石悠生氏(基盤理工学専攻博士前期2年)、遠藤晋平准教授(基盤理工学専攻)、東北大学大学院特別研究学生大井一輝氏らは、1/rおよび引力的1/rポテンシャルを持つシュレディンガー方程式の解析解を量子欠損理論(Quantum Defect Theory)という解析手法を用いて初めて導出し、双極子相互作用が強く働く混合次元系におけるエフィモフ効果の普遍的性質を明らかにしました。本成果は冷却極性分子を用いた量子三体実験や冷却原子型量子シミュレータ開発に貢献するものです。 本研究成果は物理学の専門誌Physical Review Research(オンライン版)に2026年5月1日(金)(日本時間)に公開されました。

背景

ニュートンの運動方程式を解く事で、これまで人類は惑星の動きを始め、様々な物体の振る舞いを予言することに成功してきました。特に地球と太陽のように2つの物体のみで構成される物理系において、その運動方程式は容易に解くことができます。しかし、そこにもう1つの物体を加えると、方程式を綺麗に解く事は不可能になり、予測不可能な振る舞いを示します。これを一般に3体問題と呼び、古くから知られています。さらに、20世紀以降の量子力学の発展により、原子・原子核の系を始めとする、量子効果が重要になる非常に小さな世界で3体問題を考えるようになりました。原子や電子が登場する小さな世界では、量子効果により粒子が壁をすり抜けるといった奇妙な振る舞いを示します。1970年にV. N. Efimovはこの量子の奇妙な世界で強く相互作用する3体問題を考え、無数の3体束縛状態が等比級数的に現れることを始めて理論的に示しました。この現象は発見者であるEfimovの名前にちなんで、エフィモフ状態と呼ばれています。エフィモフ状態の特筆すべき点として、粒子間の距離が相互作用の到達距離を大きく超えてもなお、3粒子がお互いに束縛しあうという点が挙げられ、エフィモフ状態はまさに量子の性質を顕著に示す例であると言えます。エフィモフ状態はEfimovによって予言され、冷却原子気体の実験において実証されて以来、量子三体物理学の中心的な研究テーマとなっています。特に、エフィモフ状態のエネルギースペクトルは原子の種類やスピン自由度など、系の複雑な詳細に依らず少数の物理パラメーターによって普遍的に決定されることが冷却原子の実験観測などから知られており、その普遍性の物理的な起源の解明が重要な課題でした。
近年、冷却原子・分子実験技術の進歩により、図1に示されるような一部の粒子が擬似的に1次元に閉じ込められ、他の原子は3次元空間を動きまわるような混合次元系の実現が可能となりました。混合次元系では、閉じ込められた粒子間の有効相互作用に1/rに比例するような引力相互作用が現れ、その結果、エフィモフ状態が現れることが通常の冷却原子に対しては解析的に示されていました。一方、磁気モーメントが非常に大きな極性分子などの間には1/r型の磁気双極子相互作用も追加で働きます。このような1/rポテンシャルも含むシュレディンガー方程式の解析解がこれまで得られておらず、そのため、混合次元エフィモフ状態の物理的挙動も未解明のままでした。

図1:本研究で扱った量子3体系の概略図。擬1次元的に捕捉された重い2粒子(緑)が磁気双極子相互作用をしながら、3次元的に動き回る軽い1粒子(黄)とも相互作用する量子3体系を、ボルン・オッペンハイマー近似により2体問題に還元し、解析解を適用した。

成果

量子欠損理論によって得られた離散スケール不変なエネルギーと波動関数は、数値計算結果と非常によく一致し、解析解の妥当性が立証されました。
この新しい解析解によって得られた重要な物理的知見として、斥力双極子相互作用が働く系の混合次元エフィモフ状態のエネルギースペクトルが、双極子長によって普遍的に決まることが解析的に示されました。一方、引力双極子相互作用の場合には、エネルギースペクトルは短距離の詳細に依存することも解析表式により明らかにしました。この普遍性の物理的解釈は次のように与えられます。双極子相互作用が斥力の場合、その斥力によって粒子はお互いに近づくことができず、長距離相互作用である双極子相互作用のみが系の振る舞いを支配します。一方、双極子相互作用が引力の場合、その引力によって、粒子がお互いに近づくことができるため、双極子相互作用の効果のみならず、原子の種類やスピンの状態といった、お互いの粒子の短距離での詳細な情報が物理的な振る舞いに影響を及ぼします。
また、混合次元系を実験で実現する際、粒子を1次元空間に完璧に閉じ込めることはできず、わずかに閉じ込め方向の幅が残ります。その有限の閉じ込めの幅の影響も解析し、本研究の解析解が、擬1次元空間に閉じ込められた2つの極性分子と3次元空間を飛び交う1つの軽原子からなるエフィモフ状態の記述に有用であることも定量的に示しました。

今後の期待

本研究で得られた解析解は、双極子相互作用が強く働く極性分子を用いたエフィモフ状態の理論的予測とその実験的実現に直接貢献するものです。近年、極性分子の制御技術は著しく進歩しており、混合次元系のエフィモフ効果が実験的に観測されることが期待されています。本研究で示されたエネルギースペクトルの解析表式は、こうした実験に対する予言に不可欠な理論的基盤となります。また、本研究で量子少数系の理解が進展することにより、原子核や物質中の電子などにおける量子少数系の理解も深まり、これら類似の量子少数系を冷却原子を用いて理解することを目指す冷却原子型量子シミュレータ開発への貢献も期待されます。

(論文情報)

掲載誌:Physical Review Research
タイトル:Analytical solution of the Schrödinger equation with 1/r and attractive 1/r potentials: Universal three-body parameter of mixed-dimensional Efimov states
著者:Yuki Ohishi, Kazuki Oi, Shimpei Endo
DOI:10.1103/8x96-ygjt

(外部資金情報)

本研究は、松尾学術研究助成、JSPS科研費(JP22K03492、JP23K25870、JP25K00217)、東北大学宇宙創成物理学国際共同大学院(GPPU)プログラムの支援を受けた研究成果です。

詳細はPDFでご確認ください。

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