2026.08.04
電気製品の心臓部である半導体デバイスの小型化が進む中、材料の「表面」で電気がどう振る舞うかを原子レベルで知ることが不可欠となっています。小林隼人氏(基盤理工学専攻博士前期2年)と中村淳教授(基盤理工学専攻)らの研究チームは、材料表面の「電気を蓄える能力(誘電率)」を3Dで詳細にシミュレーションできる新手法を開発しました。これを用いて調べたところ、シリコンでは表面でこの能力が低下するのに対し、ダイヤモンド(水素終端されたもの)では表面で大幅に高まるという新たな性質を発見しました。これはダイヤモンド表面に特有の「ふわふわと浮いた電子の状態」が原因です。この成果は、超省エネな電子部品や、次世代の高速通信デバイスなどの開発に新たな指針を与えるものです。これらの成果は、アメリカ化学会(ACS)が発行するフルオープンアクセス誌、ACS Omegaの最新号にASAP articleとして掲載されました。
現代のスマートフォンやパソコンが一貫して小さく、高性能となる要因として、内部の電子部品の大きさが原子の大きさに迫るほど極限まで小さくなっていることが挙げられます。しかし、ここまで小さくなると、材料の「表面」の電気の振る舞いが電子部品の電気的な性質に与える影響を無視できなくなります。これまで、材料の内部(バルク)の性質はよく分かっていましたが、表面のごくわずかな領域で「電気を蓄える力(誘電率)」がどう変化しているかを正確に捉えるのは非常に困難でした。
研究チームは、コンピュータ上で原子一つひとつの動きや電子の振る舞いを計算する「第一原理計算」という手法をベースに、誘電率の分布を原子スケールで3Dマップ化する新しい解析手法を開発しました。
この手法を、現在の電子機器の主役である「シリコン」と、次世代材料として期待される「ダイヤモンド」の表面に適用し、両者の違いを詳しく比較しました。
分析の結果、シリコンは他の半導体物質と同様に、表面に近づくほど「電気を蓄える力」が弱まっていくのに対し、ダイヤモンドは逆に表面でその力が内部よりも強くなる(異常増大現象)ことを発見しました。この原因は、ダイヤモンドの表面付近に存在する「ほとんど自由な電子」と呼ばれる特殊な電子の状態にあります。この電子は材料の表面から真空側へと広くはみ出しており、外部からの電気的な揺さぶりに対して非常に敏感に反応します。この「反応の良さ」が、ダイヤモンド表面の電気を蓄える力を引き上げていたのです。
今回の発見は、ダイヤモンドをはじめとする炭素材料を使った新しいナノデバイス設計の「設計図」となります。例えば、低い電圧で効率よく電子を取り出せる「冷陰極」という部品の開発や、熱を持ちにくく壊れにくい超小型スイッチなどへの応用が期待されます。
タイトル:Method for Evaluating the Spatial Distribution of Dielectric Constants: Application to hydrogenated C(111) and Si(111) surfaces
著者:Hayato Kobayashi, Sadakazu Wakui, Akira Sumiyoshi, Ranferi Cancino Betancourt, Shota Sato, and Jun Nakamura
掲載誌:American Chemical Society (ACS) 発行、ACS Omega 2026,ASAP article
論文URL:https://pubs.acs.org/acsodf/article/doi/10.1021/acsomega.6c03652/
DOI:10.1021/acsomega.6c03652/
本研究は日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 基盤研究(C)「一酸化炭素還元能を発現させる非平面π共役系原子配列の設計と評価」(JP24K08242)の支援を受けて行われました。
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