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【ニュースリリース】長距離伝搬HF波を用い、2024年能登半島地震の明瞭な前兆的電離層異常の検出に成功

2026.07.16

ポイント

  • 2024年1月1日に発生した能登半島地震に先立つ上空電離層での擾乱を初めて明らかにした。電離層が地震10日前頃より乱れはじめ、前日には極めて強い電離層擾乱が発生していることを発見した。これは地震予知の可能性を示唆する。
  • 国内で運用されているHFイオノゾンデからの斜め放射された電波は長距離を伝搬して別のイオノゾンデ観測点で受信されるが、そのoblique ionogramを世界で初めて地震の短期予知研究に用いた。
  • なぜ電離層が地震の前に擾乱するのかという課題に対して、大気振動説を提案した。

概要

芳原容英教授(情報・ネットワーク工学専攻)、早川正士名誉教授らのグループは、Dr. Shih-Sian Yang(Chang Jung Christian University, Taiwan)、Dr. Sudipta Sasmal(Institute of Astronomy Space and Earth Science, India)、Prof. Dr. Stelios M. Potirakis(University of West Attica, Greece)の研究グループと協力し、2024年1月1日に発生した能登半島地震(マグニチュード7.6)の際の上空電離層の状況を精査し、明瞭な前兆的電離層擾乱の検出に成功しました。
本研究では、情報通信研究機構(NICT)が日本国内で運用するHFイオノゾンデ観測網のデータを用いました。通常、イオノゾンデはHF電波を垂直に打ち上げ、その反射波を受信することにより観測点上空の電離層を探査しますが、放射波の一部は斜め方向にも放射され、長距離伝搬します。本研究では、鹿児島県山川観測点から稚内観測点へ伝搬する斜め放射波を用い(図1参照)、その受信oblique ionogramを用いて反射点付近の電離層電子密度を解析しました。その結果、地震の約10日前から電離層が乱れ始め、とりわけ前日には非常に顕著な電離層異常が発生していることを突き止めました(図2参照)。これは地震の短期予知につながるものと考えられます。さらに、電離層異常のメカニズムとして大気振動説を提唱しました。大気振動説とは、気温・湿度等の地表面での物理量にゆらぎが発生し、そのゆらぎが大気の振動となり、上空へ伝搬し、電離層の異常を引き起こす説です。
本研究成果は、2026年7月に、国際誌Atmosphereに掲載されました。将来の短期地震予知の可能性が期待されます。

図1:NICTイオノゾンデ観測点(稚内、国分寺、山川、大宜味。青の三角で示す)。山川―稚内間の斜め伝搬HF電波の伝搬経路を水色の線で示し、経路上の逆三角は電波の反射点を示す。赤の星印は2024年能登半島地震の震央を示し、反射点は震央から約170kmの近距離に位置する。
図2:能登半島地震前後の電離層電子密度(NmF2)の時間変化。対象期間は地震15日前から地震7日後まで。(a)(b)は送信局Txが稚内、受信局Rxが山川の場合の結果。(a)では、太線は観測値(NmF2)、細線は過去30日間の平均値を示す。(b)は両者の差、偏差ΔNmF2を示し、赤は正の偏差(電子密度の増加)、青は負の偏差(電子密度の減少)を示す。ともに標準偏差(σ)で規格化されている。(c)(d)は逆のTx山川、Rx稚内の組み合わせでの結果。赤の縦線は地震発生時刻を示す。(e)(f)は太陽活動、地磁気活度の変化を示し、これらが静穏であったことから、地震前の異常は太陽・地磁気活動に起因するものではないことを示す。

背景

地震の短期予知では地震前兆現象を探すことが必須です。地震に伴う、特に前兆的電磁気現象は数多く報告されていますが、電離層が地震予知研究の主役として登場したのは、早川らが1995年神戸地震の際にVLF送信局電波を用いて電離層下部(D/E層)の擾乱を発見して以来です。今日では各種の電離層観測が盛んに研究されています。しかし、巨大地震に関する事例はいまだ少なく、とりわけ能登半島地震については、前兆現象の報告が極めて限られていました。

手法

地震予知のための電離層擾乱の研究では、電離層上部(F層)および電離層下部(D/E層)の両者の観測が不可欠です。上部観測では主にHF垂直打ち上げイオノグラムやGPSによる全電子数(TEC)データが用いられてきました。しかし、地震発生時に地震震央近くに観測点が存在するとは限りません。本研究では、イオノゾンデ観測点間を斜めに伝搬するHF電波を用いることで、震央付近上空の電離層電子密度を推定しました。この手法により、既存のイオノゾンデ観測網を活用して観測範囲を広げられる可能性が大いに期待されます。電離層下部(D/E層)の観測は唯一の手法として、VLF/LF送信局電波の受信があります。これは、VLF/LF電波の振幅と位相を観測することにより、下部電離層の状況をモニターする手法です。世界的に本手法を活用しているのは日本、ロシア、インド、ギリシャグループと限られています。

成果

能登半島地震については、これまでGPS TECを用いた電離層異常の報告はあるものの、地震準備過程は十分に解明されていませんでした。本研究では、山川―稚内間を斜め方向に伝搬するHF電波の受信oblique ionogramを解析しました。その反射点は震央から約170 kmに位置しており、震央付近上空の電離層変動を調べるうえで極めて有効でした。
解析の結果、地震の約10日前から複数日にわたり電離層擾乱が認められ、とりわけ地震前日には−3.4σ(σ:標準偏差)に達する顕著な電子密度の減少が観測されました(図2(d)参照)。また、太陽活動および地磁気活動は静穏であったことから、この異常は地震に関連する前兆的電離層擾乱である可能性が高いと考えられます。斜め伝搬HF電波のoblique ionogramを用いて、地震に伴う短期的な前兆的電離層擾乱を解析したのは、世界で初めての試みです。
さらに、地震前の電子密度には、図2(d)にも示したように、正(増加)と負(減少)の両者が現れていました。電離層電子密度に振動的な変化が確認されたことから、電離層が擾乱される物理メカニズムとして、大気の振動が波として上空へ伝わる大気振動説が有力であることが示されました。
今後は、上部電離層と下部電離層の観測結果を比較し、電離層全体のダイナミクスの解明を目指します。

使用データ

本研究では、情報通信研究機構(NICT)宇宙環境研究室が公開しているイオノゾンデ観測データを使用しました。

(論文情報)

論文雑誌名:Atmosphere (MDPI)
タイトル:Anomalies on Ionospheric Electron Density before the 2024 Noto Peninsula Earthquake using Oblique Ionosondes
著者名:Yang. S. S, Hobara. Y, Sasmal. S, Potirakis. S. M and Hayakawa. M
論文アクセス:https://doi.org/10.3390/atmos17070671

詳細はPDFでご確認ください。

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