2026.07.08
白井想氏(基盤理工学専攻博士前期課程(研究当時))、牧野哲直氏(基盤理工学専攻博士後期課程/日本学術振興会特別研究員)と田仲真紀子准教授(基盤理工学専攻)は、東京科学大学 リサーチインフラ・マネジメント機構の梶谷孝上席技術専門員との共同研究により、1種類の短い自己相補DNAが、共存するポリエチレングリコールの濃度に応じて、「ファイバー型」または「二層構造チューブ型」へと形を変えて自己集合する現象を初めて明らかにしました。これまでDNA液晶の構造制御には、DNA配列の変更や複数成分の組み合わせが必要でしたが、本研究は「1種類の極めてシンプルなDNA」であっても、分子の混雑環境を調節するだけで、単一のDNA配列から質的に異なる液晶構造を作り分けられることを示したものです。これらの液晶集合体は10マイクロメートルを超えるサイズであり、実験条件によりサブミリメートルにまで及ぶ成長も観察されました。研究成果は2026年6月23日(火)にドイツの国際学術雑誌「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン速報版で掲載されました。
DNAは生命の設計図としての役割だけでなく、その配列に基づく予測可能な塩基対形成能から、ナノサイズの優れた材料としても注目されています。精密に配列を設計したDNAを利用することで、DNAオリガミテクノロジーが発展を遂げ、また一方でソフトマテリアルの分野からは、高濃度のDNAが液晶相を形成することが知られていました。研究チームは近年、DNA配列の設計原理をDNA液晶形成に応用し、複数のDNA鎖を組み合わせることで、分子混雑環境を模したポリエチレングリコール(PEG)の高濃度溶液中で誘起される枯渇力から、六角形構造に基づく階層的液晶構造を作り出すことに成功していました(電気通信大学・東京科学大学共同プレスリリース2025年1月14日)。このような枯渇力によるDNA液晶の形成制御は、これまで着目されてこなかった研究手法であり、DNA液晶集合体の形状を決定する要因について、さらなる基盤的知見を得ることができれば、医療方面をはじめ多岐にわたる分野での機能性材料の開発に応用することができます。研究チームは今回、1種類のDNAのみをビルディングブロックとすることで、周辺の混雑環境に応じて、DNAが本来持つ階層的な自己組織化能により、質的に異なる液晶構造体が形成されることを見出しました。
ビルディングブロックとなるDNAとして、14塩基が連結した自己相補配列をデザインしました。自己相補配列は同じ配列のDNA同士が2本鎖を組むことで、12塩基の相補部分をもち、両側に2塩基が突出した末端を有することになります。この1種類のDNAと塩を含む溶液に任意の濃度のPEGを添加し、80℃まで加熱したあと、室温までゆっくりと冷却しました。形成された液晶集合体は、蛍光顕微鏡や偏光顕微鏡による観察を行い、小角X線散乱測定により、内部構造を解析しました。さらに、自己相補DNAの塩基配列を変えることで、集合体の形状への影響を検証しました。
自己相補配列のDNA鎖は、溶液中のPEG濃度が比較的低い場合には細長いファイバー型に集合し、PEG濃度が高くなるとチューブ型という異なる形状を取ることがわかりました。さらに小角X線散乱測定を行ったところ、ファイバー型およびチューブ型の集合体はどちらも内部では二本鎖を組んだDNAが六方柱状構造を取って並び、さらにチューブ型液晶は、DNAのパッキング密度が異なる相から形成されているという高度な階層構造を持っていることがわかりました。またファイバー型は、溶液の冷却速度に応じて、サブミリメートルの長さにまで成長しました。それぞれの液晶集合体について顕微鏡観察下での温度変化観察により、形成過程の詳細を調査した結果、溶液のPEG濃度に応じて二本鎖DNA同士に生じる枯渇力の違いが、このような形状の違いの要因となったことが考えられました(図1)。
積層部分の塩基配列を変更して垂直方向の積層を弱めると、細長い集合体は形成しなくなります。そこでこのようなDNAの液晶集合体の形状は、①垂直方向の二本鎖の積層による成長と、②水平方向の枯渇力による成長の競合によって決定され、またそのバランスはPEG濃度によって制御できることが示されました。
本研究では、分子の混雑環境の調節により、わずか1種類の短いDNAからなる階層的な液晶の形状を制御できるという基盤的知見を得ることができました。これは二本鎖形成というDNAが本来持つ階層性に基づいて現れる性質であり、シンプルな生体分子から狙い通りのソフトマテリアルを作り出す新しい設計指針の構築に貢献するものとなります。このDNA液晶集合体は温度変化にも敏感に反応して形状を変える温度応答性を持つため、新たな刺激応答性材料の開発や、人工核酸との組み合わせによる機能性ソフトマテリアルなどへの展開が期待されます。
著者名:So Shirai, Tetsunao Makino, Takashi Kajitani, Makiko Tanaka
論文名:Fibers and Double-Layered Tubes Formed from a Single Self-Complementary DNA Oligonucleotide
雑誌名:Angewandte Chemie International Edition(Wiley-VCH)
DOI:10.1002/anie.6741643
公表日:2026月6月23日(火)
本研究成果は日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究C(課題番号:25K08740)、特別研究員奨励費(課題番号:24KJ1129)、国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(課題番号:JPMJCR23L2)の助成を受けて行われ、文部科学省先端研究基盤共用促進事業JPMXS0440200024で共用された機器を利用した成果です。
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