2026.06.17
細川敬祐教授(情報・ネットワーク工学専攻/宇宙・電磁環境研究センター)と、名古屋大学、国立極地研究所、京都大学、金沢大学、東北大学などを中心とする国際共同研究グループは、フィンランドのソダンキュラに設置されている全天型オーロラ撮像装置と、地球磁気圏を観測する探査衛星「あらせ」(ERG)による観測によって、これまでに報告例のない「リング状に急速拡大する脈動オーロラ」の観測に成功しました。宇宙や地上からの観測を統合的に解析することによって、この巨大なリング状のオーロラは、宇宙空間で発生する自然のプラズマ波動である「コーラス波」の波源領域そのものが急速に拡大することによってつくられたものであることを突き止めました。また、地上からの高時間分解能光学観測によって、オーロラの拡大とコーラス波の検出タイミングの遅延が一致することも明らかにしました。この現象は、宇宙空間のコーラス波の発生源の時空間変動をスクリーンのように映し出している可能性があり、脈動オーロラを地上から観測することが、宇宙空間のプラズマ変動のイメージングに繋がることが期待されます。
この研究成果は、2026年6月に、学術論文誌「AGU Advances」のオンライン版に掲載されました。
脈動オーロラは、極域においてオーロラサブストーム(オーロラ爆発)の回復相に現れる、数秒から数十秒の周期で明滅を繰り返すパッチ状のオーロラです。この脈動オーロラは、地球の磁気圏赤道面付近の宇宙空間で発生する「コーラス波」と呼ばれる自然のプラズマ波動が、高いエネルギーを持った電子を散乱させ、大気へと降下させることによって発生します。これまで、脈動オーロラの時間変化については多くの研究が行われてきましたが、空間的な形状がどのように変化するのか、またそれを決定づける宇宙空間の要因が何なのかについては十分に解明されていませんでした。
本研究は、フィンランド北部のソダンキュラで運用されている高感度・高時間分解能の電子倍増型CCD(EMCCD)全天カメラ(図1)と、同時刻に磁気圏を飛翔していた「あらせ」の観測データを組み合わせることによって実施されました。EMCCD全天カメラは、コンピュータによる自動制御によって連続的に観測が行われていますが、本成果は、2017年3月に「あらせ」がカメラの視野内において観測を実施した際に得られたデータを解析することによって得られました。
全天カメラの画像から、パッチ状オーロラが放射状に全方位へ拡大した直後に中心に暗い穴(ダークホール)が現れ、細いリング状の構造を形成する未知の脈動オーロラを撮像することに世界で初めて成功しました(図2)。このリングの拡大プロセスは非常に速く、わずか10秒間の間に完了しており、電離圏高度における拡大速度は秒速数十キロメートル以上に達していました。このような短時間でのオーロラの形状変化の可視化は、高感度カメラによって1秒間に100枚の画像を取得する世界最速のオーロラ観測によって、初めて達成されました。
また、「あらせ」の観測データでは、コーラス波の連続的な強度上昇が記録されており、図3に示すように、パッチ状オーロラの中心から少し離れた領域に位置していた「あらせ」が、リングの拡大に一致するように、数秒の時間遅れをもって、コーラス波の強まりを検出していたことが確認されました。このことは、パッチ状脈動オーロラの拡大プロセスが、宇宙空間におけるコーラス波の波源領域そのものの急速な拡大を反映していたことを示しています。さらに、本研究グループは、この急速な波源の拡大を引き起こす要因として、プラズマ中を伝わる磁気流体力学波動の一種である「速進磁気音波(ファストモード波)」が関与している可能性を提唱しました。
本研究によって、地上からの高解像度の観測によって、磁気圏におけるプラズマの擾乱が波動を通じて急速に伝播し、それが超高層大気で観測されるオーロラの形状を直接的に制御していることが明らかにされました。これにより、地上に設置したカメラによる広域のオーロラ観測網を用いることで、地球周辺の放射線帯などにおける高エネルギー電子のダイナミクスを遠隔からモニター(可視化)する新しい手法への応用が期待されます。また近年、木星探査機によって木星の極域オーロラでも同様の円状に拡大する構造が発見されており、本研究のアプローチは他の惑星におけるオーロラの構造形成メカニズムの理解にも繋がることが期待されます。
論文雑誌名:AGU Advances
タイトル:Circularly expanding ring-shaped pulsating aurora visualizing the source of plasma waves in space
著者:K. Hosokawa, S. Kurita, Y. Miyoshi, S.-I. Oyama, Y. Ogawa, M. Ozaki, Y. Kasahara, Y. Kasaba, S. Yagitani, S. Matsuda, F. Tsuchiya, A. Kumamoto, A. Matsuoka, S. Imajo, T. Raita, E. Turunen, T. Takashima, I. Shinohara, R. Fujii
DOI:10.1029/2026AV002300
本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(15H05747, 21KK0059, 21H04526, 22H00173, 22KK0046, 23H01229)の補助により行われました。
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