2026.04.28
五島優太氏(情報学専攻博士前期2年)と羽田陽一教授(情報学専攻)の研究グループは、直線上に並んだ複数(32個以上)のスピーカを独立に制御することで、空間上の音再生エリアを限定しつつ、そのエリア内での音像を空中でリアルタイムに移動可能な新しいアルゴリズムを開発しました。これまで、空中に音像を浮かべる技術や、音の再生エリアを限定する技術は個別に研究がなされておりましたが、演算量を抑えつつリアルタイムにこれらを同時に実現することは困難でした。五島氏らは、空中に音像を浮かべる技術と音の再生エリアを限定する2つの技術を周波数・空間フーリエ変換領域で定式化したのちに、性能に影響を与えない範囲において複数の関数近似を組み合わせることで時間・空間領域でのリアルタイム処理を実現しました。
立体映像技術やプロジェクションマッピングの進展により、これに対応可能な立体音響技術への需要も高まってきています。これまでも複数のスピーカを直線上に並べたスピーカアレイを用いた波面合成法を用いることで、スピーカのない位置への音像提示や、目の前に迫る空中音像の提示は可能でした。またこれに加えて羽田教授らの研究グループでは、モーションキャプチャした人の動作に合わせて仮想音源位置を変えるインタラクティブオーディオの研究も進めてきました。このような状況において、提示する映像や物体の視聴範囲に合わせて、再生する音エリアを限定しながら、そのエリア内においてリアルタイムに音像の位置を変えられる新しいシステムの構築が望まれていました。
空中に浮かぶ音像を提示するための技術として、直線上に並べた複数(例えば32個以上)のスピーカを用いる波面合成法が知られています。この技術は、空中に浮かんだ音像がその場に作る波面のうち、再生するために用いるスピーカが並んだ直線上の音圧傾度が必要となります。
一方で、音の再生エリアを限定するためには、受聴者の位置における波面の音圧が必要となります。
このように音圧傾度を参照する位置と受聴者の位置が異なると、これらを同時に制御することは難しい問題となります。そこで、これらの参照位置を合わせるために、音圧傾度情報の参照位置を一旦受聴者位置として、そこからスピーカ位置での音圧傾度を逆算する方式を採用することにしました。
ただし、この逆算にはフーリエ変換が必須となるため、今度はリアルタイム性が損なわれるといった課題が残りました。そこで五島氏らは、停留位相近似と非整数遅延器を導入することでフーリエ変換を必要としない低演算量でかつリアルタイム性に優れたアルゴリズムの導出に成功しました。
図1に示すような4.8cm間隔で直線上に並べた128個のスピーカを有する直線スピーカアレイを用いて、計算機シミュレーションによる性能評価と、実際に人が聞いてエリア内の音の動きの把握と、エリア外の音のわずらわしさについて主観評価実験を実施しました。
再生エリアを限定しながら波面が合成できるかを検証するため計算機シミュレーションを行った結果を図2に示します。評価周波数は1kHzです。図の色は波面の音圧に対応しており、緑色の部分は音圧が低く、音が聞こえないエリアとなります。この図から提案法では正面や斜め方向にエリアを限定しながら、エリアの中に波面を合成できていることが分かります。
主観評価実験では再生エリアの限定と移動感を同時に調査しました。被験者はエリア外からの妨害音を聴取しながら、聞きたい音の移動感を評価しました。主観評価の結果を図3に示します。この図から再生エリアを限定しない方法では、妨害音によりうるさいと感じるだけではなく、移動感も損なわれることが分かりました。一方で、提案手法では、妨害音のうるささを感じにくく、聞きたい音の移動感も正しく知覚できることが分かりました。
本研究では、空中に浮かぶ仮想音源を限定した再生エリア内にのみ音量を高く提示する技術を実現しました。また、開発したアルゴリズムは通常のパソコンを利用してリアルタイムで動作することも確認しています。このため、今後は、モーションキャプチャで取得したユーザ動作に合わせて、再生エリアの位置や、エリア内での仮想音源位置の変更を行うことで、高度なインタラクティブオーディオの発展に寄与していく予定です。また、共同研究を行っている株式会社ラダ・プロダクションとともに各種イベント等でのデモ展示実施を計画していきます。
国際会議名:2026 IEEE International Conference on Acoustics, Speech, and Signal Processing
論文名:TIME-DOMAIN SYNTHESIS OF VIRTUAL SOUND SOURCE WITHIN PERSONALIZED SOUND ZONE USING A LINEAR LOUDSPEAKER ARRAY
執筆者:Yuta Goshima, Yoichi Haneda
発表日:2026年5月6日(祝・水)
雑誌名:Acoustical Science and Technology
論文名:Time-domain representation of wave field synthesis based on the spatial-shifting filter for a linear loudspeaker array
執筆者名:Yuta Goshima, Yoichi Haneda
掲載日時:2026年3月28日(土)(Advanced online publication)
DOI:https://doi.org/10.1250/ast.e26.14
本研究は株式会社ラダ・プロダクションとの共同研究として行われました。
詳細はPDFでご確認ください。