2026.04.21
原遼吾氏(基盤理工学専攻博士前期1年)、遠藤晋平准教授(基盤理工学専攻)、山鹿汐音助教(基盤理工学専攻)らは、量子多体系において、格子幾何が平衡化を阻害する新たな機構を発見しました。本研究成果は、量子多体系の非平衡ダイナミクスにおける平衡化の理解に新たな視点を与える基礎物理学的意義を持つとともに、量子状態の制御や量子シミュレーションへの応用に繋がることが期待されます。本研究成果は、物理学の専門誌Physical Review B(オンライン版)に2026年4月20日(月)(日本時間)公開されました。
多くの自然現象では時間の経過とともにやがて落ち着いた状態(平衡状態)に至ります。このような「平衡状態」は、物理学において普遍的に見られる基本的な性質です。
一方で、量子力学に従う系では、時間発展の性質により、外界と接続していない孤立した量子系は平衡状態に緩和しません。しかし、系の一部分(部分系)に着目すると、あたかも平衡状態に近づいたかのように振る舞うことが知られています。
このような平衡緩和のメカニズムにおいて、物質の配置や構造、すなわち「かたち」がどのような影響を与えるのかについては、これまで十分に調べられてきませんでした。
本研究では、グラフェンの有効模型などでも知られるハニカム格子を採用しました。
非平衡状態から平衡状態へと行き着く過程において、部分系の対称性が回復することに着目し、部分系における対称性の破れを定量化する指標として「エンタングルメントアシンメトリー(Entanglement Asymmetry)」を用い、その時間発展を解析しました。
準粒子描像という手法を用いて解析を行い、その結果、対称性が回復するかどうかが、系の長さの偶奇によって決まることを明らかにしました。さらに、この振る舞いの起源が系のエネルギー構造に現れる平坦なバンドにあることを示しました。
本研究により、量子多体系の緩和現象が格子の"かたち"によっても制御されうることが示されました。今後は、相互作用を含む一般的な系への拡張や、冷却原子系などの実験による検証が期待されます。本研究の知見は量子シミュレーションや量子情報処理への応用にもつながる可能性があります。
掲載誌:Physical Review B
タイトル:Dynamics of entanglement asymmetry for space-inversion symmetry of free fermions on honeycomb lattices
著者:Ryogo Hara, Shimpei Endo, and Shion Yamashika
DOI:https://doi.org/10.1103/lpz6-3v48
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 研究活動スタート支援「長距離相互作用スピン鎖における量子ムペンバ効果の理論研究」(25K23355)、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 基盤研究(B)「強相関物質における不純物粒子の量子ダイナミクスの普遍性の研究」(23H01174)、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 基盤研究(C)「異方的相互作用に駆動されたフェルミ系のエフィモフ状態の新たな普遍的挙動」(25K00217)、松尾学術研究助成の支援を受けて実施されました。
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