2026.03.27
小木曽公尚教授(機械知能システム学専攻)らの研究グループは、地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所と共同で、ネットワークを介したロボットの遠隔操作において、操作信号を暗号化したままリアルタイムで制御する「サイバーセキュア・バイラテラル制御」技術を確立しました。従来の遠隔操作(バイラテラル制御)では、ロボットが受ける感触(反力)を操縦者に伝える際、そのデータがネットワーク上で丸見えになるセキュリティ上のリスクがありました。本研究では、データを暗号化した状態でそのまま足し算や掛け算ができる「準同型暗号(秘密計算)」の一種を活用。これにより、第三者がデータを盗み見ても内容は解読できず、かつ操縦者は暗号化の影響(遅延や精度の低下)を一切感じることなく、安全にロボットを操ることが可能になりました。
近年、5Gなどの通信技術の発展により、遠隔地からの手術や、災害現場でのロボット作業が現実のものとなっています。これらのシステムでは、操縦者がロボットの動いた距離を感じ、ロボットが物に触れた感触を操縦者にフィードバックする「バイラテラル(双方向)制御」が欠かせません。しかし、この通信データがサイバー攻撃を受けると、機密情報の漏洩だけでなく、ロボットが暴走して重大な事故につながる恐れがあります。これまでの対策では、暗号化による計算の遅れがロボットの安定性を損なうという「セキュリティと性能のトレードオフ」が大きな壁となっていました。
本研究では、最も精度の高い遠隔操作を実現できる「4チャンネル・バイラテラル制御」という手法をベースにしました
実験の結果、暗号化を施したシステムにおいても、ロボットの姿勢の同期精度や、操縦者に伝わる感覚の再現性が、暗号化前と完全に一致することが実証されました。これは、セキュリティを強化しても遠隔操作の「質」が一切落ちないことを意味します。また、暗号化によって制御パラメータ(ロボットの設定値)自体も隠蔽されるため、システムの設計思想そのものを盗用から守る「知的財産の保護」の観点からも極めて有効であることが確認されました。
本技術は、ネットワークを介したあらゆる精密操作の「安心・安全」の基盤となります。
今後は、より複雑な多関節ロボットへの適用や、より高度なサイバー攻撃(リプレイアタック等)に対する防御機能の強化が進むことが期待されます。
タイトル:Cyber-Secure Teleoperation With Encrypted Four-Channel Bilateral Control
著者:Haruki Takanashi, Akane Kosugi, Kaoru Teranishi, Toru Mizuya, Kenichi Abe, Kiminao Kogiso
掲載誌:IEEE Transactions on Control Systems Technology
DOI:10.1109/TCST.2025.3577536
日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 基盤研究(B) 「暗号化制御系におけるセキュリティメトリクスの顕在化」(22H01509,23K22779)
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