2026.03.17
次世代の高速無線通信(6Gなど)では、直進性が顕著となる、高い周波数の電波を使用します。しかし、これらの電波は人や物によって遮られやすく、通信が頻繁に途切れることが課題でした。内村颯汰氏(情報・ネットワーク工学専攻博士後期3年)、石橋功至教授(先端ワイヤレス・コミュニケーション研究センター)は、米ノースイースタン大学のJosep Miquel Jornet教授との共同研究により、障害物がある状況下でも電波を最も効率よく届けるための「最適な波の形」を特定しました。従来の通信システム設計では重要視されていなかった「電波の回り込み(回折)」を精密に組み込んだ独自の数理モデルを開発。これにより、遮蔽物があっても受信地点で電波が最大に強まるような送信方法を、理論とシミュレーションの両面で証明しました。
現代の無線通信は、より速く、より大量のデータを送るために高い周波数へと移行しています。しかし、周波数が高くなるほど電波は「光」に近い性質を持ち、障害物に当たると跳ね返ったり遮られたりしてしまい、わずかな遮蔽で通信品質が急落します。特に、将来的に想定されている巨大なアンテナアレイを具備した基地局が高い周波数の電波を放射する場合、従来の「遠くへ飛ばすための理論」が通用しない「近傍界領域」という特殊な環境になります。近傍界領域において、現実の街中や部屋のように障害物が多い場所でいかに効率よく通信するかが、世界中の研究者の大きな課題となっていました。
研究チームは、電波が物体のエッジ(角)で曲がる「回折現象」を精密に計算できる「均一回折理論(UTD)」をベースに、近傍界領域における無線伝播路の数理モデル化を行い、障害物による電磁界の変動を正確に捉える「決定論的チャネルモデル」を提案しました。さらにこの提案モデルに基づき、アンテナから出る電波の「強さ」と「タイミング(位相)」をどう配分すれば、受信機に届くエネルギーが最大になるかを数学的な最適化問題として解き、この計算結果から導き出された「理想的な波の形」を、コンピューターシミュレーションで検証しました。
本研究の最大の成果は、遮蔽物が存在する近傍界領域において「最大比送信(MRT:受信側で信号電力を最大化する手法)」を実現する波の形を理論的に導出可能な数理モデルを確立したことです。従来の理論では、障害物があると通信効率が著しく低下するとされていましたが、本提案モデルを用いることで、物理的な限界に近いレベルまで通信効率を引き上げることが可能であることを示しました。これにより、複雑な屋内環境や人混みの中でも、常に安定した超高速通信を提供する基盤技術が整いました。
スマートスタジアム・イベント会場:数万人の観客が密集し、人波が電波を遮り続ける環境でも、一人ひとりに安定した映像配信やSNS利用を提供できます。
今後は、この理論を実際のアンテナ装置に実装し、リアルタイムで変化する環境(動く人や車など)に合わせて瞬時に波の形を変える技術へと発展させることが期待されます。
タイトル:Optimal Wavefronts for Maximum Ratio Transmissions Under Path Blockage Effects
著者:*Sota Uchimura, Josep Miquel Jornet, Koji Ishibashi (*)責任著者
掲載誌:IEEE TRANSACTIONS ON WIRELESS COMMUNICATIONS, VOL. 25, 2026
DOI:10.1109/TWC.2026.3658566
科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業「古典的無線設計から脱却した極限的性能を実現する無線通信システムの開発」(JPMJCS24N1)
科学技術振興機構(JST)国際科学技術協力基盤整備事業「【通信分野】グリーンIoT:サイバー空間でフィジカル空間を再構成するための次世代基盤技術」(JPMJKB2307)
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