2026.03.12
中嶋睦月さん(情報・ネットワーク工学専攻博士前期課程2024年度修了)、朱沛賢助教(情報・ネットワーク工学専攻)、木寺正平教授(情報・ネットワーク工学専攻)の研究グループは、マイクロ波を用いて乳がんを正確に診断するための新しい画像再構成アルゴリズムを開発しました。現在の主流であるマンモグラフィ(X線)は痛みを伴い、特に「デンスブレスト」と呼ばれる乳腺密度が高い高密度乳房を持つ女性では、がんと乳腺の識別が難しいという課題があります。木寺教授らは、マイクロ波散乱の非線形性に起因する問題(内部の多重散乱等)を、「背景情報を逐次更新する」という独自の手法で解析。これにより、これまで計算が非常に困難だった「正常な乳腺組織」と「がん組織」のわずか電気的特性(複素誘電率)の違いを、高精度かつ定量的に可視化することに成功しました。
乳がんは世界中の女性で最も多いがんであり、早期発見が生存率を左右します。しかし、従来のマンモグラフィは放射線被ばくや検査時の強い痛みがある上、日本人女性の約8割が該当する「高密度乳房」ではがんの検出率が低下するという弱点があります。これに代わる手法として、非電離放射線で安全な「マイクロ波イメージング」が注目されていますが、乳腺組織とがん組織の電波に対する性質が似ているため、これまでは画像が不鮮明になりやすいという数学的な壁(非線形性の問題)がありました。
シミュレーションの結果、提案手法は特に高密度乳腺モデルにおいて、従来の標準的な手法(MF-CSI等)と比較して、がん組織の特定精度が飛躍的に向上することが確認されました。特に、各組織の電気的性質を示す「誘電率」の実部(電気の蓄えやすさ)において、乳腺と識別できるレベルで正確に再現できています。また癌が存在しない場合では、乳腺と同程度の誘電率を推定しており、いわゆる偽陽性を抑えることもできることがわかります。また、膨大な計算時間を要する「順解法(FDTD法など)」を繰り返す必要がないため、計算コストを低く抑えつつ高精度化を実現した点が画期的です。
本技術は、将来的に病院のベッドサイドや検診車、さらには家庭でのセルフチェックを可能にするポータブルな乳がん検診装置のコア技術になることが期待されます。また高頻度計測を可能とするため、観測データの時間差分を用いることで、より高精度な診断が可能になると考えられます。
タイトル:High-Contrast Complex Permittivity Reconstruction With Background Updating Contrast Source Inversion for Microwave Breast Cancer Diagnosis
著者:Mutsuki Nakajima, Peixian Zhu, and Shouhei Kidera
掲載誌:IEEE Transactions on Antennas and Propagation
DOI:10.1109/TAP.2025.3636185
日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 基盤研究(B)「マイクロ波乳癌診断及び治療のためのレーダとトモグラフィの双方向画像解析法」(23H01418)
公益財団法人 旭硝子財団 若手研究継続助成
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