2026.03.17
池田暁彦准教授(基盤理工学専攻)は、東京大学物性研究所の厳正輝助教と理学系研究科物理学専攻の諏訪秀麿助教らの研究グループ、物質・材料研究機構、京都大学と共同で、スピン自由度と格子自由度の結合(=スピン-格子結合)を微視的に取り入れた新たな理論模型を提案し、モデル物質に対する強磁場下での物性測定と比較することでその有効性を実証することに成功しました。本成果は、米国科学雑誌『Physical Review Letters』の2026年3月16日(月)付(米国東部夏時間)オンライン版に掲載されました。
全ての磁性体において、スピン間に働く磁気相互作用の強さはその起源に依らず、スピン間の距離に依存します。特に、複数の磁気相互作用が競合するフラストレート磁性体においては、格子自由度が磁気状態の決定に寄与することがあります。このようなスピン-格子結合を微視的に記述する理論模型として、各ボンドの独立な変調を仮定する「ボンド-フォノン模型」と、各原子の独立な変位を仮定する「サイト-フォノン模型」が提案されていました。しかし、いずれの模型も一長一短があります。ボンド-フォノン模型はマクロな格子歪みを記述できますが、スピン-格子結合に起因する最近接スピン間の相互作用しか考慮しないために、現実物質における長距離磁気秩序や複雑な磁気相転移を再現できないことがあります。一方で、サイト-フォノン模型では有効的な次近接以降の相互作用を考慮するために、長距離磁気秩序の再現には強みを持ちますが、マクロな磁歪は考慮されていません。したがって、実験結果の詳細な議論において、スピン-格子結合を統一的に記述する理論体系の構築は重要な課題でした。
そこで、研究グループはこれら両模型を融合した「拡張スピン-格子結合模型」を提案し、パイロクロア反強磁性体の理論相図と熱力学物性を詳細に調べました。計算結果をモデル物質の強磁場下での物性と比較したところ、従来理論では説明できなかった高磁場領域での二段転移や磁化プラトー相における負の熱膨張、比熱ピークの振る舞いといった様々な実験事実を全て再現可能であることが明らかになりました。これは、拡張スピン-格子結合模型が、現実物質における熱力学物性を統一的に説明する有効模型として有力であることを示唆しています。本模型は、他の格子系に対しても普遍的に適用可能であり、その有用性の更なる検証が待ち望まれます。
論文タイトル:Unified Description of Spin-Lattice Coupling and Thermodynamics in the Pyrochlore Heisenberg Antiferromagnet
著者:M. Gen*, H. Suwa*, S. Imajo, C. Dong, H. Ueda, M. Tachibana, A. Ikeda, K. Kindo, and Y. Kohama
雑誌名:Physical Review Letters
DOI:10.1103/8c73-l4nk